「国立科学博物館で学ぶ物理学」メニュー
 フーコー振り子  ジャイロホイール  トムソンリング  まぼろしの壁  回折  電子雲  月の軌道  HR図  霧箱・サイクロトロン  一般相対性理論概要  素粒子標準理論概要

国立科学博物館で学ぶ物理学 <素粒子標準理論概要>

[概説] 非相対論的量子力学/シュレーディンガー方程式 相対論的量子力学/ディラック方程式 ゲージ場理論/ヤン・ミルズ場 ヒッグス場 標準理論 [関連メニュー] 電子雲/シュレーディンガー方程式 一般相対性理論/ブラックホール・宇宙年齢 素粒子/霧箱・サイクロトロン 国立科学博物館で学ぶ物理学 ホーム


  <目次>
     [T] 素粒子標準理論〜俯瞰

     [U] 標準理論の主要な原理

            (a)変分原理    
                  @質点の理論における変分原理 
                  A場(波動関数)の理論における変分原理 
                  B経路積分

            (b)対称性(原理)  
                  @ローレンツ対称性  
                  Aゲージ対称性

            (c)不確定性原理/量子化

     [V] 標準理論に至る主要な数式一覧・説明

            (1)非相対論的量子力学〜 主として電子/シュレーディンガー方程式 〜   
                  (a)調和振動子の解   
                  (b)クーロン場(原子)の解(シュレーディンガー方程式)

            (2)相対論的量子力学/量子電気力学(QED)
                                    @自由粒子のディラック方程式
                                    A電磁場と相互作用する粒子(電子)のディラック方程式
                                        (a)自由粒子の解
                                        (b)電磁場の解
                                        (c)電磁場中の荷電粒子(特に水素原子の電子)のエネルギー解
                                        (d)電磁場中の荷電粒子の磁気モーメント解

            (3)ゲージ理論
                     (a)ゲージ場とゲージ変換  
                      @大域的ゲージ変換   
                      A局所的ゲージ変換 
                  (b)ヤン・ミルズ場

            (4)ヒッグス場理論  
                  (a)対称性と質量       
                                             @局所的ゲージ対称性とボゾン質量の禁止
                                             Aカイラル対称性とフェルミオン質量の禁止
                                    (b)ヒッグス機構(ボゾン・フェルミオンの質量)
                                    (c)湯川相互作用(フェルミオンの質量)

            (5)標準理論
                                    (a) GWS(グラショウ・ワインバーグ・サラム)理論/電弱統一理論
                       @ レプトン質量/ヒッグス機構
                                             A レプトンの相互作用
                                    (b) 狭義標準理論(電弱統一理論)総まとめ (小林・益川理論、ニュートリノ振動)
                                    (c) QCD理論/量子色力学理論

     [W] 標準理論の解法/経路積分法・格子ゲージ理論

                  (これ以降が実験との対比で不可欠であるが、これまた膨大な説明を要するので、本サイトでは記述できていません)   



<参考>特殊相対論関連(反変ベクトル・共変ベクトル、ミンコウスキー空間の計量、ローレンツ変換 、4元ベクトル、電場の強さ)



[T]素粒子標準理論  素粒子にどんなものがあるのかの簡単な説明は、素粒子/霧箱・サイクロトロンを参照してください。)

現代物理学の双璧は、一般相対性理論素粒子標準理論である。それぞれは、以下のように、 形式的にはシンプルな式で表される。前者は重力を扱うマクロの理論であり、後者は重力を含まないミクロの理論である。最先端物理学は この2つを同時に表す究極の理論(万物の理論、神の方程式)を追及している。その一つの候補が超弦理論といわれるものとされるが未完成である。

    <一般相対性理論> 一般相対性理論については、[一般相対性理論基本]をご覧ください。その全容と応用について解説しています。

                      
    <素粒子標準理論> D(/)はファインマン・スラシュと呼ばれる記法で、通常、Dと/を重ね書きします。

                      

さて、素粒子標準理論が、上に示したような "たった一行の方程式" で表される理論と言われれても全く分かりませんよね。

数式の第1項は力の源泉である場を表し、第2項(h.cを含む)は粒子の性質および粒子と場との相互作用(力など)を表し、第3項以降は 粒子の質量を表すというのですが、余り直観的とも言えません。このように標準理論の式は、一般相対性理論のように物理的意味が単純でもなく、 また扱う数学も複素関数論・群論・線形代数(行列)などなど普段馴染みのないものを用い、且つ物理学特有の略記法を多用するため、極めて 複雑なものとなるのです。超弦理論者に言わせれば、36種ものクォークがあり、理論で導きだせないパラメータが20もある、"最も醜い理論"であるのです。


このように複雑難解で醜い理論の全容を簡単に説明することは不可能に近いが、その概要でも表せないかと敢えて挑戦してみることにしましょう。
下図に、標準理論に至る物理学の理論を体系的に示しておきます。図中には、キーワードや有名な方程式を上げておきます。標準理論とは 一言で言えば、「対称性」を原理とする理論で、ラグランジアン密度を対称性を満足するように構築した理論です。対称性の追求の中で生じる不都合 (電子の電荷・質量の無限大、素粒子の質量0)を補完する繰り込み理論自発的対称性の破れなどの理論が加わります。肝心の標準理論の解法( 繰り込み理論を含む)については、これまた膨大・複雑で素人には手に負えない難物であるので、本サイトでは扱っておりません。

                                    


[U]標準理論の主要な原理

本節の内容を理解するには、次節以降で説明する内容(最低でも<参考>特殊相対論関連(反変ベクトル・共変ベクトル、ミンコウスキー空間の計量、ローレンツ変換 、4元ベクトル、電場の強さ)) の理解が先決ですが、ここでは、こんな事かくらいに考えて眺めてください。次節以降の内容を理解した後で見返して貰えば よいと思います。




(0)ラグランジアン密度と運動方程式 〜変分原理・対称性・不確定性原理〜

数式一覧に移る前に、ラグランジアン密度を使って具体的な方程式を導く変分原理と、ラグランジアン密度を構成する原理となっている 対称性、ならびに量子化のもととなる不確定性原理を見ておこう。

〜何故ラグランジアン密度なのか〜


(a)変分原理/オイラー・ラグランジュ方程式、経路積分

ニュートンの運動方程式は、直交座標(x,y,z)で表した場合と、極座標(r,θ,φ)で表した場合では、その形が変わってしまう。どの座標 で表しても同じ形の式から導けるように出来れば便利である。この目的のために編み出されたものが、オイラー・ラグランジュ方程式 である。従い、次項(b)で述べるような対称性を考える場合には、この形式の方程式は目的に合致している。このことから、標準理論の ベースがラグランジアン(その拡張であるラグランジアン密度)となるのである。

@質点の理論における変分原理

一般化座標を qi (i=1〜3N,N=質点数)、運動エネルギーをT、ポテンシャルエネルギーをVとして、次式で定義されるラグランジアンLを導入する。
        
運動方程式は、次の作用積分 S
        
において、δqiに対する変分δS=0、すなわち S が最小値(正確には極値)をとるときとして表される。このことを変分原理(or 最小作用の原理)という。
変分原理を適用すると、運動方程式として、以下のオイラー・ラグランジュ方程式を得る。
        
これより、具体的なニュートンの運動方程式(3Nケの連立方程式)が得られる。


                      <参考1> オイラー・ラグランジュ方程式の導出

                             δLは、変分の規則 δ(dq/du)=d/du(δq) ならびに 微分公式 (uv)'= u'v + uv' を用いて、
                        
                        
                             従い、δSは、始点(t1)・終点(t2)の条件δqi(t1)=δqi(t2)=0を考慮して、
                        
                             これは、恒等的に成り立たねばならないから、{ }=0 すなわち 上記のオイラー・ラグランジュ方程式を得る。

           <参考2> オイラー・ラグランジュ方程式とニュートンの運動方程式

               具体的には、例えば、重力 g の下での質量 m の物体1ケの1方向の運動を考えると、位置z<=q>、速度v=dz/dt<=dq/dt>、
              p=mv<=m(dq/dt)>、T=1/2mv2<=1/2m(dq/dt)2>、V=mgz<=mgq> であるから、オイラー・ラグランジュ
              方程式の各項は、
                        
               と書け、運動方程式として、ニュートンの方程式が次のように得られる。
                        

           <参考3> ハミルトン形式

                            ハミルトン形式はラグランジュ形式からルジャンドル変換により得られる。(詳しくは解析力学の教科書を参照してください)

              ラグランジアンLおよび一般化座標の時間微分dq/dtを用いて、次の2式で定義される一般化運動量(共役運動量ともいう)p
              並びにハミルトニアンHを導入する。(このq,pを正準変数という。)
                                   
                                                               
              このように定義されたハミルトニアンを用いると、次に示すハミルトニアンの正準方程式と呼ばれる関係が得られる。
                                              
                            L=Σp(dq/dt)-H となるから、以上の関係を用いると、作用積分Sの変分δS=0 となっていることが確認できるであろう。
                             これらの関係から、ある物理量 X(q,p,t) の時間微分(すなわち運動方程式)を実行すれば、次のようになる。                        (X,H)PBをポアソン括弧という。X を 一般化座標 q または一般化運動量 p とおくと、それらは時間tを陽には 含まないので∂X/∂t=0 (今は∂q/∂t=0,∂p/∂t=0)である。従い、          一般化座標を行列q(qij)、一般化運動量を行列p(pij)、更に H(∂H/∂qij)と置けば、                        なお、ハミルトニアンの意味するものは、T=(1/2)mq2のような場合は、H が全エネルギー(H=T+V)であると言うことである。         
              XをHと置くと、dH/dt=∂H/∂tとなるから、T=(1/2)mq2となる場合で且つハミルトニアンが陽に時間に依存しない場合は、               全エネルギーが保存される。(H=const ie E=const) ハミルトン形式を使うと、座標の取り方によらず運動方程式が成り立ち、対称性のある議論が簡単に行えるので、量子論では これを多用する。 また、[a,b]=ab-ba と定義される括弧(交換関係)を使って表される次の関係(演算子として表された正準共役な変数 q,p 同士               の交換関係)を正準交換関係という。この量子力学での交換関係は、古典力学のポアソン括弧に相当する。         

A場(波動関数)の理論における変分原理

質点系の力学における、離散的で有限個の添え字を連続無限の添え字を含むように拡張すると、ラグランジアン密度<斜字L>(エネルギー密度の次元をもつ)を用いて、ラグランジアンLおよび作用積分Sは、
        
        
これから、次のオイラー・ラグランジュ方程式を得る。
        
右に示したものは、標準理論では頻繁に使用される、アインシュタインの和の規則(ex. xμxμixixi)を使った表現である。(但し、∂μ=∂/∂xμ)
これより、例えば電磁場の運動方程式として、マックスウェル方程式が得られる。


                      <参考1> 弦の振動方程式とオイラー・ラグランジュ方程式の概略

                             弦の横方向変位をφ(x,t)とすると、弦の長さdlは、
                        
               従い、弦の張力,密度をF,ρとすると、運動エネルギーT、ポテンシャルエネルギーV、ラグランジアンLは、
                                       
                             このように定義されたラグランジアン密度L(斜字)ならびに作用積分Sは、dφ/dx=ψとして、
                        
                        
                             δS=0より、弦のオイラー・ラグランジュ方程式が次のように書ける。
                        

                             以上の1次元の式を3次元に拡張すると、
                                     
                                     
                             これらの式から、δS=0と置くと、上記の場のオイラー・ラグランジュ方程式を得る。


           <参考2> オイラー・ラグランジュ方程式とマックスウェル方程式

                詳しくは後述するとして、流れだけでも見ておこう。( [注] 自然単位系採用、計量テンソルημν=(1,-1,-1,-1)採用 )
               
                             電磁場(E,B)のラグランジアン密度は、4次元時空のベクトルであるベクトルポテンシャルAμ,電流密度ベクトルJμを用いて、
                              
                             と表わせて、作用積分SならびにδSが次のようになる。(ημν:光速一定4次元時空すなわちミンコウスキー空間の計量テンソル)
                        
                        
                             δS=0であるためには [ ]=0でなければならないので、運動方程式として、マックスウェルの方程式が次のように得られる。
                                                    
               電流密度ベクトルは自然単位系では、Jκ(ρ,jx,jy,jz)であるから、
                                  
               また、                    
                   
                   
               尚、以下に示すもう2つのマックスウェルの方程式は、定義式 FμνFμν=∂μAν−∂νAμ より、得られる。                    

B経路積分

自由粒子(場がない)や電磁場(荷電粒子がない)単独ではにオイラー・ラグランジュ方程式を適用して波動関数を求めるができるが、電磁場中の荷電粒子 のように、2つが相互作用する場合は、一般的にオイラー・ラグランジュ方程式を適用して波動関数を求めることは難しい。特に、相互作用する多粒子系 を扱う標準理論では、ファインマンの経路積分と呼ばれる手法を用いて直接的に波動関数を求める。(しかしこの方式でも解析的に波動関数を 求めることはできず、殆どが数値解析に頼らざるを得ない。)


波動方程式は、次の形の解を有し、作用積分で表される。言い換えれば、作用積分は波動関数の位相に他ならない。( E = H であることに注意)
        
従い、一般的な物質波としての波動関数は、次のように言い換えることができる。すなわち、粒子の時刻 t0 における位置を x0 、粒子の時刻 t における位置を x として、 x0(t0)とx(t)を結ぶ位置の曲線(経路)について S(t0,t)を求めて物質波を作り、これを経路について加え合わせると、時刻 t 、位置 x における波動関数が得られる。 何故なら、S =∫Ldt が停留値をとるような経路のみ残り、他は干渉してなくなるからである。
        
今、時刻 tk における波動関数を ψ(tk)、接近下時刻 tk+1=tk+εの波動関数を、 ψ(tk+1)とする。 xk(tk)とxk+1(tk+1)を結ぶ経路について作用積分を、
        
と置くと、
        
と表される。(この時間微分を取れば、シュレーディンガー方程式となることが示せる。すなわち、この手法はファインマン流の変分原理といえよう。)


このような表現をとったものをファインマンの経路積分といい、波動関数を次式で表す。
        
次の式をファインマンの積分核という。
        
xa=x0、xb=xnとして、作用積分は、
        
核と作用積分は簡略化して次のようにも表される。
        
        



(b)対称性(原理)

右図に示すように、正三角形は、座標を120°回転しても、おなじ正三角形に見える。これと同じように、見方を変えても物理法則の 数式は同じでなければならないとするのが、対称性原理である。


対称性には、3次元空間における並進対称性・回転対称性などの他に、4次元時空(相対性理論)における ローレンツ対称性、内部空間(場の理論)におけるゲージ対称性・非可換ゲージ対称性・超対称性などなどがある。 究極の理論ならば、これらのすべての対称性を満足する筈だとするのが現代物理学である

物理法則が対称性を有するためには、ラグランジアン密度が対称性を有さねばならない。ラグランジアン密度が対称性を有すれば、その対称性の種類に 応じ、運動量保存・角運動量保存・エネルギー保存・電荷保存等々の保存則が成り立つ(ネーターの定理)ことが証明されている。 すなわち対称性原理は各種保存則を成り立たせる理論とも言える。


@ローレンツ対称性

もっとも簡単な例から始めよう。今、座標系 K(x,y)があって、ポテンシャルエネルギー φ(x)<これはスカラー量であり座標変換では不変 ie φ(x)=φ'(x')> のもと、x方向に一定速度vで移動する座標系 K'(x',y')での運動を考える。この2つの座標系での変換は、古典論ではガリレオ変換といわれるもので、
        
座標系(x,y)での運動方程式は、
        
ここで、x=x'+vtを代入すると、vは一定であるから、dx=dx'となり、
        
それぞれの座標系での成分を用いれば、どの座標系でも運動方程式は同じ数式で表される。このことを、物理法則が不変であるという。 このように、並進するどの座標系でも、物理法則が同じ数式で表されることを並進対称性があるという。

ポテンシャルエネルギーが φ(x,y) である場合すなわち力Fが任意の方向を向いている場合は、誰もがよく知っているように、x、yの 成分に分けて方程式を作るすなわちベクトルr=(x,y)、F=(Fx,Fy)=(-∂φ/∂x,-∂φ/∂y)を用いて、
        
        
と書けば、並進対称性を持つことがいえる。

これらの式が回転対称性を有する(座標回転でも同じ式 d2x/dt2=−∂φ/∂x → d2x'/dt2=−∂φ'/∂x' 等で表される) ことは、座標回転が下右に示す行列U(Ut U=I ie 直交行列)で表されるので、次の関係式で左からUt を掛ければ、明白であろう。
        
        

所で、ベクトルを別の数学的表現で言えば、それは1階テンソル(添え字の数がnケある ものをn階テンソル、スカラー:0階テンソル、ベクトル:1階テンソル、行列:2階テンソル)であり、rμ=(r1,r2)=(x,y)、 Fμ=(F1,F2)=(Fx,Fy)と表し、
        
と書ける。すなわち、テンソルで表された物理法則は時空における並進対称性・回転対称性を常に満足する。


4次元時空でのローレンツ変換は、以下の<参考>に記すようにガリレオ変換と同様に線形変換であるから、以上の説明は4次元時空に拡張して同様のことが言える。 すなわち、物理量を相対性原理を満足するテンソル(ベクトルならば4元ベクトル)で表現すれば必然的に ローレンツ対称性を満足するといえる。 従い、標準理論では、すべてをテンソル形式で論じるので、露わにはローレンツ対称性の議論が出てこない。

                      <参考1> ローレンツ変換μν
                             座標x(ct,x,y,y,z)に対しx方向に速度vで移動する座標x'(ct',x',y',z')は、次の関係式で結ばれる。これをローレンツ変換という。
                        
                     これを行列 L(テンソル Lμνx'= L x(ct,x,y,y,z)で表すと次のようになる。
                             テンソルの添え字の上げ下げは右に示すミンコウスキ計量ημνμνで行う。
                 
                       
                             すなわち、det(L)=1 & LtL=I であり、ガリレオ変換と同様に直交行列Uの変換で運動方程式は不変となる。

                      <参考1> ローレンツ対称性
                             座標系 xμと座標系 x'μの関係は、一般的に、次の関係式で結ばれる。
                             
                             また、これらは、 クロネッカデルタδμν , ミンコウスキー計量 ημν を通じ、次の関係を持ち、ローレンツ変換では、
               線形関係にあるから、2階偏微分は0となる。
                                  
                             電磁場の強さを表すラグランジアン密度FμνFμν(詳細後述)を例に、以上の関係式を駆使するとローレンツ対称性が
               成り立つことを示そう。FμνFμν=2(∂μAνμAν−∂μAννAμ)であるから、以下が示せれば全体の議論には十分である。            
                          


座標変換で不変な物理法則が導かれるためには、対称性を有するラグランジアン密度を構築しなければならない。 その数式は複素関数となるため、実関数での直交行列に相当するユニタリー行列(U(1),SU(2),SU(3)等) で表す必要が出てくる。これは群論といわれる数学の分野を理解しなければならないが、ここでは詳細説明を割愛する。



Aゲージ対称性

Maxwell方程式において divB=0 であり、数学公式より恒等的に div・rotA=0 であるから、B=rotAと 置ける。また、E も、E=-divφ と置ける。この A をベクトルポテンシャル、φをスカラーポテンシャル(電位) というが、これら A、φ の値には任意性があり、次のような変換を行ってもMaxwell方程式は成立する。

     <ゲージ変換> 
                          
    4元ベクトル Aμ(−φ/c、A)を導入すると、これら2つの変換は、次のように1つの変換として表すことができる。
   ( [注]:ここではημν=diag(-1,1,1,1)を用いている。ημν=diag(1,-1,-1,-1)ならば Aμ(φ/c、−A)となる。)
                              

このようなゲージ変換を行っても、電磁場の強さを表すテンソルFμνの数式(詳細後述)の形は以下に見るように不変である。このことを、ゲージ対称性という。
         
         

なお、Maxwell方程式から得られる (△−1/c22/∂t2)φ =−ρ/ε0 および (△−1/c22/∂t2)A =−μ0 j に、ゲージ変換後の値を代入して得られる電荷の保存則 divj =−∂ρ/∂t が成立するためには、次の条件が必要となる。この条件を、ローレンツ条件という。
         



(c)不確定性原理/量子化(詳細は後述)

「不確定性原理」とは、位置 x と運動量 p は、同時には決定できず、つぎの関係にあることを言う。(h は プランク定数であり、それを2πで割ったものをディラック定数という)
         

「量子化」というのは、「不確定性」を導入するということであり、具体的には「演算子の交換関係」(交換関係の式≠0)を課すことである。

                <参考> 交換関係・反交換関係
            
               ・交換関係   
               ・反交換関係  
                         交換関係にあるとは、ab-ba=0 ie ab=ba のように a と b を交換しても同じ結果を得ることを言う。

電子が波動性を有し原子核に拘束された電子から飛び飛びの波長をもつ光が出る(発光スペクトル)という性質の説明を与える理論的考察 において考え出されたものが量子化である。その最初は、ボーアの量子条件(m:質量、r:軌道半径、v:速度)であり、その拡張版のゾンマーフェルトの量子条件(p:一般化運動量、q:一般化座標)である。
         
         
これらを、演算子(ハットを付さないことが多い)の満たすべき条件としたのが、ディラックの量子条件である。下第2式は行列演算子といわれるものである。
         
         

また、この交換関係は、粒子の生成・消滅演算子(それぞれ a,a、または、 b,b で、古典力学の解である波動関数の振幅)でも、ボゾンでは交換関係(a,a交換関係の式≠0)を、 フェルミオンでは、反交換関係(b,b反交換関係の式≠0)を課す。上記を単に量子化と言い、ここに言う演算子関係を特に場の量子化(または第2量子化)という。
         
         
こうした量子化を織り込んで理論を構築する。



              <参考> ディラックの量子条件と不確定性関係 / 不確定性原理表式の導出 
             不確定性原理は、以下のように、シュワルツの不等式
                 
                  を用いて導くことができる。すなわち、波動関数ψを用いれば、ある物理量 A の期待値 <A> は<A> = ∫ψ*Aψdx 
                  (但し、∫ψ*ψdx=1)であるから、
                 
                 
                  従い、凾、凾垂ヘ、α=x−<x>、β=p−<p>とすると、
                 
                 
                  更に、f=αψ=(x−<x>)ψ、g=βψ(−i(h/2π)∂/∂x−<p>)ψと置くと
                 
                 
                 
                  この3式を上記シュワルツの不等式に代入して、αβ=(1/2)(αβ−βα)+(1/2)(αβ+βα)考慮すると、
                 
                 
                 
                 
                  従い、結論として以下の不確定性原理の式を得る。
                 



[V]標準理論に至る主要な数式一覧・説明

標準理論を理解するには、数多くの理論的背景を理解しなければなりません。理論すなわち数式を勉強されるにも、どこに向かってどこを話しているのかが 分かるように、数式の全体を眺望できるよう基本数式を「表」にまとめてみました。 より詳しくは表の前後に記す説明を見ていただくとして、「表」中の基本数式から、標準理論とはなんとなく こんなものかと思ってもらえればいいかなと思います。



(1)非相対論的量子力学 〜 主として電子/シュレーディンガー方程式 〜

量子力学は、水素原子の離散的な発光スペクトルを説明するために考えられた理論であるが、これには2つの流派があった。 一つは無限次元の行列演算子で表されるハイゼンベルグ流の行列力学であり、もう一つは 微分演算子で表されるシュレーディンガー流の波動力学であるが、両者は同じものであり、 実際的な計算ではその扱い易さからもっぱら波動力学が用いられる。

行列力学は、発光スペクトルが ν∝(1/n2-1/m2)で表されることから、状態 n と状態 m とによって或る物理量が 規定出来るはずだとして、行列要素(m,n)を考えた。このことは、数学的には行列Aの固有値λが物理量になる(Axx)筈 だとするものである。

一方、波動力学は、粒子が波動性を有するものならば、ψ = A cos{(2π/λ)x−2πνt} すなわち ψ = A exp{-i{(2π/λ)x−2πνt}}と 表される筈だとして、アインシュタインの式 E=hν、およびド・ブロイの式 λ=p/hを代入して、x,tに関する微分をとると、
        
        
が得られるので、E=p2/(2m)+Uに代入すれば、シュレーディンガー方程式となり、これを解けば物理量が分かるとしたものである。
すなわち、波動力学では、ハミルトニアンHにふくまれる運動量p、エネルギーEを、次のように置き換えることで量子化され、この演算子を波動関数ψに作用させることで運動方程式が得られる。
        
        


        x:位置 p:運動量 m:質量 ψ:波動関数 E:エネルギー H:ハミルトニアン U:原子核ポテンシャル h:プランク定数
波動力学 行列力学
ハミルトニアン
量子化条件(演算子)
ここでは明確化のためハット^を付したが、一般にはハット^を付さずに記されることが多い
交換関係






運動方程式 <Schroedinger方程式>
 


or


<Heisenberg方程式>
 
 
or





エネルギー(期待値)
(S:ユニタリー行列)<対角化操作>
時間発展表現 < 固有値
不確定性関係

粒子の位置期待値(存在確率)
        (存在確率

これらを使って解ける問題はあまり多くはないが、以下の(a)で、両流儀での調和振動子の解を記すので参考にしてください。
なお、波動力学によるクーロン場での解については以下の(b)または電子雲/シュレーディンガー方程式を参照してください。

           <ディラックのブラケット記法>

                  波動力学と行列力学ならびにその後の理論の説明でも、その見通しの良さから、ディラックが導入したブラケット記法
         が多用されるので、極々簡単に紹介しておこう。


         量子力学的状態は、ユークリッド空間の拡張であるヒルベルト空間(無限次元複素空間)での規格化された
         ベクトルが対応すると考える。このベクトル(量子力学的状態)を、|φ>なる記号で表す。これをケット
         ベクトルといい、それに対応する共役ベクトルを<φ|なる記号で表し、ブラベクトルという。その内積を
         <ψ|φ>のように表し、†を転置複素共役、*を複素共役とすると、内積の関係は以下のようになる。
                                                          
                  

                  物理量は、状態ベクトル|φ>に作用する線形演算子として表され、物理量(オブザーバブル)を A、その
         演算子を A ハット とすると、状態|φ>に作用して別の状態|φ'>に変わる。
                       
                  演算子は次の固有方程式を満たし、|φn>を固有状態(固有ケット)、anを固有値という。
                       
                  任意の物理的な状態|ψ>は、演算子Aの固有ケット|φn>で常に次のように展開できるとする。
                       
                  ここに、|φn>は完全正規直交系をなすものとする。すなわち
                                             

                  系の状態が|ψ>で表されるとき、この状態で物理量を測定してanという値の得られる確率(遷移振幅確率、
         遷移確率)P(an)は、次式で表され、Aの測定を行えばAの固有値のいずれかが必ず測定されることを保証している。
                               
                  状態が|ψ>において、物理量の測定を行ったとき得られる期待値<A ハット>は、次式で与えられる。
                               


         <行列表示> 状態|ψ>に演算子Aが作用して状態|φ>になったとすれば、完備性Σ|φn><φn|=1より、
                                    
                               左から<φm|を掛けると、                             
                                         
                               と表せるから、次のように行列形式の固有方程式となる。この時、ケットベクトル|ψ>=(<φn|ψ>)は列ベクトルとなる。
                またブラベクトル<ψ|は(<ψ|)で、行ベクトルとなる。
                                   
                               ここで、演算子Aの固有値がan、固有ケットが|φn>であるならば、次式にみるように、行列
                Amnは対角成分しか持たない。
                                   


                  <波動関数表示> 物理量が位置や運動量のように連続的な場合に拡張します。厳密に説明すると長くなるので
                主要な結論だけを書きます。内積は
                                                              
                               確率は、
                                                              
                               期待値は、
                                                              
                               
                
                               物理量Aが運動量pである場合の演算子  は、ディラックの量子条件
                                                              
                               から、 を考慮して、波動関数ψに作用させると、
                                                              
                                                              
                                                              
                                                              
                               このように演算子で表した x,p にディラックの量子化条件(交換関係=i(h/2π))を課すと、
                               p の演算子が微分演算子 i(h/2π)∂/∂tで表される。
                               逆に、シュレーディンガーの量子化条件すなわち p → i(h/2π)∂/∂t を用いると、必然的に
                               ディラックの量子化条件が導かれる。すなわち、いずれも同じものであり、表現の仕方が異なる
                               だけのことである。


(a)調和振動子の解(シュレーディンガー方程式・ハイゼンベルグ方程式

   調和振動子とは、バネの復元力の如く振動の中心からのずれの2乗に比例した復元力を受ける系のことで、次のハミルトニアンHで定義される。
                                                   
      この系の解を結論だけ以下に示すが、結果はおなじものを与える。


      (a-1)シュレーディンガー方程式
                    シュレーディンガー方程式は、運動量pを演算子 -i(h/2π)∂/∂x と置き換え、
                                             
                    H=E すなわち ハミルトニアンH および エネルギーE(演算子 i(h/2π)∂/∂t)を演算子に置き換えると、
                                             
                    この方程式の解は、
                                                                             
                                             
                    更に、次のような計算をすれば、(a-2)に示した行列x(xmn)、p(pmn)をえる。
                                    


      (a-2)ハイゼンベルグ方程式
                   物理量x,pを行列(太字)で表すと、ハミルトンニアンは、(以下演算子のハットは省略する)
                                             
                   これをハイゼンベルグ方程式に代入すると、下左の式が得られる。(下右は、A=p+imωxB=p-imωxの置き換えをしたもの)
                                                              
          xpに、交換関係(下左)を課す。(下右は、A=p+imωxB=p-imωxの置き換えをしたもの)
                            
                    これらから、ハミルトンニアンは、次のように書きかえられる。
                                             

          これらの関係を満足するABは、
                                  
                    もとに戻すと、シュレーディンガー方程式と同じ解をえる。(行列は無限次元である
                                 
xpは、xpに交換関係を課して求めたものであるから当然のことであるが、           実際、上の結果から行列計算をすると、           となっていることを確認できよう。 最低のエネルギーを零点振動というが、これを基準にエネルギーをとると、Hn = n(h/2π)ω となるから、           のように、hνというエネルギーの塊として個数を数えることができる。 (参考)生成・消滅演算子 上記(a-2)のハミルトニアンを因数分解すると、 そこで、次の a、aを定義する。それぞれを生成・消滅演算子という。 その意味は、pxに、(a-2)の解を代入すれば、以下の関係式が得られることから分かるであろう。           すなわち、a、a は、(a-2)のiA、iBに他ならずそのABの行列表示は上に示した通りであるが、両者の積をとると、                 この関係は、Nは状態nにある粒子数と解釈され、そのエネルギーHが粒子数 N=aa で表されている。 さて、a、a に対応する基底ベクトルをφ013,・・・、すなわち             とすると、a、a の具体的行列を思い起こして行列計算をして、     のように、aは状態nに作用してn+1の状態に移り粒子を1ケ生成し、aは状態nに作用してn-1の状態に移り粒子を1ケ消滅する。           一般的に、     この関係は、(a-1)の波動力学からも導かれるが、量子論の構造的な理解にはここで示した量子力学で見た方が見通しが良いとされる。
  

(b)クーロン場(原子)の解(シュレーディンガー方程式)

   クーロン場とは、U∝1/r で定義される場であるが、原子の場合 U=Ze^2/r (Z:原子番号)であるから、
      ハミルトニアンHは次のようになる。
                                                   
   この解の詳しい説明は、電子雲/シュレーディンガー方程式を参照してください。エネルギーは次の
      ような値をもつ。
                                                                        
      このエネルギー解は、水素原子の離散的な発光スペクトルを説明する。
(なお、このクーロン場にある荷電粒子のエネルギーは、行列力学でも解けるそうであるが、非常に 複雑であるとのことである。)


(2)相対論的量子力学/量子電気力学(QED) 〜 主として原子の電子/ディラック方程式 〜

上記シュレーディンガー方程式は、時空対称性すなわちローレンツ変換に従わねばならないという相対論を満足していない。そこで次に提案 されたものがディラック方程式と呼ばれる相対論的量子力学である。



    L:ラグランジアン 斜字L:ラグランジアン密度 ψ:波動関数 Ψ:波動関数(スピノール) U:原子核ポテンシャル m:質量 q:電荷 r:位置 v:速度
    E:電場 B:磁場 D:電束密度 H:磁束密度 j:電流密度 ρ:電荷密度 Aμ:4元ベクトルポテンシャル Jμ:4元電流密度  Fμν:電磁場の強さ
自然単位系 自由粒子 電磁場(式の表現は異なるが内容は同じ 全系(自由粒子と電磁場の相互作用)
古典物理

<Newton方程式>








<Maxwell方程式>
                             



<Lorentz力>




非相対論場
<E=p2/(2m)を量子化>
(略)<ローレンツ対称性不満足>



<Schroedinger方程式>(量子)







<Maxwell方程式>






<Schroedinger方程式>


ディラック場
<Lorenz対称性(E2=c2p2+m2c4)を量子化>



<Dirac方程式>(スピン、磁性)






<Maxwell方程式>






<Dirac方程式>(スピン、磁性)

@自由粒子のディラック方程式

相対論に従えば、粒子の持つエネルギーEは次のようになる。
        
シュレーディンガー方程式は、非相対論的エネルギーE=1/2mv2(ie H=p2/(2m))をベースとしおり、ハミルトニアンHは運動量pの2次式となっている。 従い、それより導かれるシュレーディンガー方程式は上に見たように時間の1階微分と位置の2階微分で表され、時間と空間は同じもの(時空対称性)であるべき ことに反している。そこで、ディラックは、対応するハミルトニアンHは、次のように、運動量pの1次式で表されなければならないとした。
        


この関係を満足するαi、βを用いれば、上表に示す自由粒子のディラック方程式(自然単位系)が得られる。すなわち、
        
更に、この方程式を導くラグランジアン密度は、実数のスカラーでなければならない( x が複素数ならば、共役複素数 x* を用い、x*x=実数、a が列ベクトルならは、その転置の行ベクトル at を用い、ata はスカラーとなる)から、次のように表すことができる。
        
但し、ψは、複素共役の転置を意味する。アインシュタインの和の規約・微分∂μ等は、この下に記す<参考>「特殊相対論関連およびγ行列」(後述)を参考にしてください。

                                 <参考> ラグランジアン密度から運動方程式が得られることの確認
                                             ラグランジアン密度が、以下の通りであるとする。()                                          ψとψは、独立として扱え、ψで微分すると、オイラー・ラグラジュ方程式は、                                       左からγ0 をかけると、を考慮して、                   
これをもとに構築されたディラック方程式は、1成分の波動関数ψではなく、4つの成分を持つ波動関数Ψ(これをスピノールと言う)で表される(簡単のためψで示すが4成分であることはいつも認識すべきである)。 このように4成分からなることより、スピンの存在を示し、且つ反粒子の存在を予言した。このことは、対称性の重要性を示しており、 これ以降対称性の徹底的な追求によって標準理論およびその後の理論につながってゆくのである。

A電磁場と相互作用する粒子(電子)のディラック方程式

上表の全系(自由粒子と電磁場の相互作用)のラグランジアンは、ローレンツ力 F = q( E + v×B ) を導出できるものとして、次のラグランジアンLを考える。
        


                <参考1>ローレンツ力 F = e( E + v×B ) の導出

              ラグランジアンを、
                             
              とおくと、ベクトル公式 
                             
                            を用いて、x と dx/dt は独立であることより、
                               
                            所で、dA/dtは、
                           
                            これらから、オイラー・ラグランジュ方程式を求めると、
                           
                                   
                                   
                            第2・第3式を第1式に代入して、E=−▽φ-∂A/∂t、B=rotA=▽×Aを考慮すると、
                           
                           
                       
ハミルトン形式のところで説明したように、一般化運動量 p は p i =∂L/∂(dqi/dt) であるから、∂x/∂tは下右のようになる。
        
この一般化運動量pを用いれば、ハミルトニアン H は、(H=Σpi(dq/dt)i-L)
        
このように、自由粒子のハミルトニアンから全系のハミルトニアンを得るには、置き換え pp−eA を行えばよい。すなわち、

        


以上は古典論での全系のハミルトニアンであるが、相対論での全系のハミルトニアンは、ディラックの自由粒子のハミルトニアンから同じ置き換えを行なうことで得られる。すなわち、
        
この関係を量子化し、アインシュタインの和の規約を用いて表すと、電磁場と相互作用する粒子のディラック方程式(自然単位系)として次の式が得られる。
        
この方程式を導くラグランジアン密度は、前述と同様に、
        
ここに、Aμ は、4元ポテンシャルベクトル(後述<参考>「特殊相対論関連」参照のこと)である。




                <ディラック方程式導出詳細>(式の簡潔化のため、自然単位系(c=1,h/2π=1)で説明する)

              相対論では、E2 = p2+m2 であるから、これを量子化(E=i∂/∂t,p=-i▽)すると、
                             
               書き換えると、
                             
                            ミンコウスキー空間の計量ημν=diag(1,-1,-1,-1)・アインシュタインの和の規約を用いて、更に書き換えると、
                              
                            これを、クライン・ゴルドン方程式といい、質量mを持つスカラー粒子(その場がφ)相対論的運動を記述する。
              後の参考のため、この方程式を与えるラグランジアン密度を書いておこう。
                             
                            クライン・ゴルドン方程式を導くラグランジアン密度がこれでよいことは、オイラーラグランジュ方程式と計量テンソル
                                      
              を用いれば確認できる。

                                          <**> 慣れていない方のために丁寧に書いておこう。

                        ラグランジアン密度の1/2を一先ず省いて、∂μ とφは独立であるので、∂μ の関数部分のみ考えると、
                                                
                                                
                                                
                        また、φの関数部分のみ考えると、
                                                
                                               この2つの差を取れば、クライン・ゴルドン方程式となる。




                            さて、H=E=α・p+βm と表せるとすれば、これを量子化( E→i∂/∂t、p→-i▽)して、
                             
                            この方程式が、質量mの自由粒子を記述するものならば、その解は、クライン・ゴルドン方程式も満足するはずである。
              そこで、この式の左からこの式の( )で表される演算子を掛けると、
                             
                            クライン・ゴルドン方程式と比較すると、αi、βは次の関係を満足しなければならないことが分かる。 
                           
                                      
                                     
               ここに示したαi、βは、任意性があり、ここではβを対角行列とする4×4行列を選んでみると、パウリ行列(後述)を用いて、
                           
              であればよい。
                            
                            H=E=α・p+βm を量子化した元の式の左からβを掛けて整理すると、
                             
                       すなわち、
                                 
              この式をアインシュタインの和の規約を用いて表すと、以下に示す自由粒子のディラック方程式が得られる。
                           
 
 


電磁場と相互作用する粒子については、上で説明したように、ロレンツ力を表すには、pp−qAの置き換えでよいが、               4元ベクトルである一般化運動量 pμについて、以下のように置き換えればよい。             この置き換えは、量子化(pμ→i∂μ)して、次のように置き換えればよい。                           従い、電磁場と相互作用する粒子のディラックの方程式は、自由粒子のそれに、この置き換えをすれば得られる。             なお、相対論での置き換え i∂μ → i∂μ−q Aμ は、両辺に i を掛けて、次のようにも書ける。             すなわち、相互作用への置き換えは、ゲージ理論で出てくる共変微分への置き換え(∂μ → Dμ=∂μ + iq Aμ)と同じもの であることに留意すべきである。

<参考>特殊相対論関連(反変ベクトル・共変ベクトル、ミンコウスキー空間の計量、ローレンツ変換 、4元ベクトル、電場の強さ)

およびγ行列(ディラック表現、カイラル表現)

反変ベクトル(xμ等)・共変ベクトル(xμ等)およびアインシュタインの和の規約等の詳細は、[一般相対性理論基本]を参照してください。

       極く簡単に紹介すると、ミンコウスキー空間の計量ημνにより、反変・共変は変換可能で、内積は反変・共変のベクトル積で表される。
               
       
<注> ミンコウスキー空間の計量ημν
一般相対性理論を初めとする宇宙論と、素粒子標準理論では、ミンコウスキー空間の計量ημνの扱いが異なるので注意が必要である。 本サイトでも混用しているので注意してみてください。一般的には、次のような扱いが多い。
                     特殊相対性理論を簡単に言うと、観測者のいる慣性系の4次元時空 x(xμ)=(ct,x,y,z)tと、x方向にvで動く慣性系の4次元時空 x'(x'μ)=(ct',x',y',z')t とは、以下のローレンツ変換 L(Lμν)により、x' = L x (or x'μ = Lμνxν)なる関係にあり、                     且つ、vで動く慣性系での時間すなわち固有時間τ、並びにエネルギーE(運動量 p)が、光速cに対し次の関係にあることである。                                             ★以下に、4元ベクトル(4次元空間でのベクトル)・電磁場の強さならびにカイラル行列を示す。 <注> 自然単位系・へヴィサイド・ローレンツ単位系とミンコウスキー空間の計量ημν
以下の4元ベクトルは、ημν = (-1,1,1,1) 並びに MKSA単位系を用いて表している。        自然単位(c=1,h/2π=1)およびへヴィサイド・ローレンツ単位系(ε0=1,μ0=1)で表わせば、c,、h/2π、ε0、μ0が式には現れてこない        ことに留意してください。上表は自然単位で表しているように、本サイトでも処々で混用しているので注意してみてください。   4元ベクトル ( [注] :上付/下付きの変換は、ημνの定義により変わる。) ( ここではημν = (-1,1,1,1)を用いているので、例えば、Aμ = ημνAν = (-φ/c,A)となる) ( あるいはημν = (1,-1,-1,-1)を用いれば、  例えば、Aμ = ημνAν = (φ/c,−A)となる)
       <位置ベクトル> xi=13 xiei                  <微分ベクトル> i=13 Σei∂/∂i                  <速度ベクトル> vi=13 vieii=13 (dxi/dt)ei                  <一般化運動量ベクトル> pi=13 piei                                 <ポテンシャルベクトル> Ai=13 Aiei                                 <電流密度ベクトル> ji=13 jiei                  電磁場の強さ Fμν および エネルギー密度 FμνFμν の具体的表現( ημν : ミンコウスキー空間の計量テンソル、 E : 電場、 B : 磁場)      ここで、               を考慮すると、以下の行列がえられる。

FμνFμν は、行列の積 G=(Fμν)(Fμν) とすると FμνFμν=trG であるが、以下のテンソル計算からも、エネルギー密度の次元を       持つことが分かるであろう。
    
[注] : Fμν=∂μAν-∂νAμ と定義することもあるが、この定義の下ημν = (1,-1,-1,-1)で変換されたものを (F1)μν、          上の定義 Fμν=∂μAν-∂νAμの下ημν = (-1,1,1,1)で変換されるものを (F2)μν とすると、(F1)μν=−(F2)μν の関係にある。          また、(F1)μν=−(F2)μνでもある。従い、後に出てくる電磁場のラグランジアン密度に現れる FμνFμν は、いずれの定義 でも内容は同じである。すなわち、(F1)μν(F1)μν=(F2)μν(F2)μν    カイラル表現 γμ(μ=0〜3,k=1〜3)μは4行4列の行列である。以下にはブロック単位の行列で表している。)                    但し、σは、パウリ行列であって、          
それらの間には、実際計算してみれば分かるように、次の関係がある。       
      この表現では、           <参考>自由電子のDirac方程式の具体的な方程式は、4つの成分を持つ波動関数Ψ(Ψ1234)についての、 以下のような4元連立方程式である。   ディラック表現 γμ(μ=0〜3,k=1〜3)        γ行列には任意性があり、ディラック表現(これが最初の表現)があり、カイラル表現との関係は、ブロック単位の行列で表すと、        ディラック表現によるγ行列は、具体的には、前述<ディラック方程式導出詳細>に記した行列となる。すなわち、               [注] γ0 行列の2成分波動関数での扱い ディラック粒子の波動関数は4つのスピノールからなるが、2成分で扱うこともある。その時は、2行2列のブロック単位での行列計算を行う。 実際的な計算は、σ0が単位行列であることより、カイラル表現・ディラック表現それぞれ、              と置いて、普通の行列の如く計算すればよい。

(a)自由粒子の解 (ディラック方程式 1)

   直上の<参考>に示したように、自由粒子のディラック方程式は、4元連立方程式である。
   γ行列をディラック表現に戻し、左から行列β=diag(1,1,-1,-1)を掛けると、元々の=cαβmc2から導かれた次の4元連立
   方程式(自然単位系でなくMKS単位系で表す)となる。
                                                   
                                                   
                                                   
                                                   
      自由粒子は、E,pが一定であるから、(k:波数ベクトル、r:位置ベクトル、p:運動量ベクトル、ω:角速度、E:エネルギー) 
                                                              
      と表せるので、上の4元連立方程式は次のように書きなおすことができる。
                                                   
                                                   
                                                   
                                                   
      u(u1,u2,u3,u4)が0でない解を持つためには、この行列式=0でなければならないから、
                                             

      すなわち、負のエネルギーを持つ粒子があることを示唆している。実際、この粒子は反粒子(陽電子等)として存在が確認されている。
上の連立方程式を解くと、本項(a)の最後に記す解 u1〜u4 を得るが、ここで電子が静止しているとすると、運動量は0、すなわち px=py=pz=0 であるから、 u1=(1,0,0,0)、u2=(0,1,0,0)等となる。
   電子がスピンを有するという実験事実から作り上げたパウリの経験則 <スピン:s=(sx,sy,sz)、パウリ行列:σ=(σxyz)=(σ123)>         を用いれば、u=(u1,u2,u3,u4)に対し、静止状態の解<(ex) u1=(1,0,0,0)、u2=(0,1,0,0)>を適用すると、 のように、u2は、スピン -1/2(下向きスピン↓)を持つといえる。< u1では、スピン 1/2(上向きスピン↑) > 従い、ディラック方程式の解は、次のように、エネルギー正でスピンが上・下の2つと、エネルギー負でスピンが上・下の2つの合計4つの成分からなる。 (以下の式で、Epは、正のエネルギーを意味する。ie Ep=E+)                                   <参考>ディラック方程式解の2成分表示(ディラック行列とカイラル行列)        @ディラック行列による2成分表示       ディラック方程式の出発点であるハミルトニアンは、次式である。                   これを量子化(H=E→i∂/∂t,p→-i▽)すると、次のディラック方程式式となる。                   その解ψは、4成分のスピノールψi(i=1〜4)で表され、且つ、                この4つの成分 ui を次のように、2つの成分(χ,λ)で表す。                          さて、ψiをこのように2成分で表し、ディラック表現のγ行列を用いると、E = H = cαp+βmc2 は、                  と書けるので、整理すると、(σkpk=σp, σ0 = I (ブロック単位では1))         
      p=0の時を考えると、E=mc2ならば、上左式は、                   従い、λ=0でなければならない。すなわちχは正のエネルギーを持つ解である。          p=0 で E=-mc2ならば、χ=0でなければならない。すなわちλは負のエネルギーを持つ解である。          p=0の時、u1が上向きスピンを、u2が下向きスピンを持つことは、前述の通りであるから、全体として、                          Aカイラル行列による2成分表示 標準理論は、ここで示すように、左巻き(ψL)・右巻き(ψR)粒子で論じられるのでこの表示は重要である。 後述のカイラリティを参照してください。表示のみ書くと、(ブロック単位での単位行列は1として計算する)                            さて、ψiをこのように2成分で表し、カイラル表現のγ行列を用いると、(自然単位系)E = H = αp+βm 量子化して i∂/∂t+iα▽-βm)φは、                  と書けるので、整理すると、(σ0 = I (ブロック単位では1))                   ここで、          とすると、ψL、ψR は次式を満足する。                   このような方程式を導くラグランジアン密度は、転置複素共役を ψ として、次式が考えられる。          このラグランジアン密度は、ローレンツ対称性を示すが、実数ではない。ラグランジアン密度は、エネルギー密度で          あり、実数でなければならないから、第1項第2項のエルミート共役(A=Aのこと)(Hermite Conjugate:hcと書く)を加えたものと しなければならない。すなわち、(<参考>複素数の実数化: A=a+ib の場合、A'=A+A*=(a+ib)+(a+ib)*=(a+ib)+(a-ib)=2a )                    本サイト冒頭の式の(hc) はこの意味で添えられている。

(b)電磁場の解 (マックスウェル方程式)

      ( [注] 自然単位系採用、計量テンソルημν=(1,-1,-1,-1)採用、電位場テンソル  採用 )

      表中に記した電磁場のラグランジアン密度からマックスの方程式が導かれることは[U](0)(a)A参考2「オイラーラグランジアン
   方程式とマックスウェル方程式」で既に示した。もう一度書くと、作用積分Sの微小変分δSは、
                      
      δS=0であるためには [ ]=0でなければならないので、運動方程式として、マックスウェルの方程式が次のように得られる。
                      
   λをμ、ρをνと書き直して、Fμν=∂μAν-∂νAμを考慮すると、以下のように書き換えることができる。
                      
      
      この式の微分をとると、次の連続の式を得る。( Jμ=(ρ、j) )
                          


    ゲージ変換のところで説明したように、ポテンシャルエネルギーAには任意性があるので、ゲージを固定する条件を課す。
      ( [注] 上の式は簡素を旨に自然単位系で示すが、以下では、馴染みのある表現として、MKSA単位で表している。)

                @ローレンツゲージ (電荷保存則を意味する) :  ( Aμ=(φ/c、A) )
                                    
              更に、Jμ=0(ie 電荷密度ρ=0,電流密度j=0ならば、電磁波の方程式を与える。
                                      

                Aクーロンゲージ (静電場であれば、クーロンの法則の場となる):  
                                    
                           電流密度 j=0 ならば、クーロンの法則を与える。(A0は、4元ポテンシャルAμの時間成分)
                                    
              球対称座標で書けば、
                                    

              このクーロンゲージの例として、高速移動荷電粒子の電場を扱うことができるが、その解につい
              ては、 「素粒子/霧箱」を参照してください。




(c)電磁場中の荷電粒子(特に水素原子の電子)のエネルギー解 (ディラック方程式 2)

      
   水素原子の電子は、原子核すなわち陽子からの静電場にある。直上Aで説明したクローンゲージ場であるから、AμはA0のみ
   である。表中に記した全系(相互作用)のディラック方程式は、荷電粒子の性質を知りたいのであるから、δψに対するδSを求めること
   (従いFμνFμνは消える)により得られるが、これにクーロンゲージを当てはめれば、普通にクーロンポテンシャルのあるハミルトニアン
   が得られる。
                      
      この方程式を解くために、極座標(r,θ)に変換する。極座標での運動量p=(pr)、係数α=(αr)、角運動量L=r×pとして、以下を導入する。
                      
                      
      ここに導入した k は、軌道角運動量Lとスピン角運動量Sの和すなわち全角運動量Jの量子数である。(Jz=(-j,j+1,・・・・,j-1,j)(hバー)、J2=j(J+1)(hバー)2)

                  <参考>
                                             
                               
                               
                               
      パウリ行列の関係式より、
                      
                      

      従って、ハミルトニアンは極座標で次のように表される。
                      
      ここで、αは、動径方向成分αrのみであるから、αrβ+βαr=0 を満たすものとして、以下とし、
                      
      また、(1/r)r・p=(r/r)・p=erp すなわち pの動径への射影であることを考慮して量子化すると、−i(hハット)∂/∂r であるから、
                      

      Hψ=Eψから、波動方程式は、
                      
      となるが、今考えているαr、βを使い、更に ψ=(F/r,G/r)t と置き、βkψをF,Gであらわすと、
                           
                      
      更に、次の変換を行う。
                      
                      
      このように置くと、方程式は以下のようになる。
                      
                      

                                    

      この方程式は、f,gをrで級数展開し、境界条件・収束性より、"奇跡的"に解けるということであるが、
      分かったような分からないような議論なので、 割愛して、結果のみ記しておこう。
             <r=0における境界条件>     
             <sの収束性>          
   sは級数の終わりの項を表すから、sは0か正の整数であるので、これを新たにn’と置くと、
                 
      と書き直すと、エネルギーの固有値Eとして、つぎの式を得る。  
                 
      ここに、k および 主量子数 n は、
                    
   であるから???、水素類似原子のエネルギーが次式で得られる。原子番号:z、主量子数:n、
      スピンsと軌道角運動量lの合成角運動量を合成した角運動量:j、微細構造定数:
      α=e2/{4πε0(h/2π)c}、原子番号:Zとして、
         
n,l,j,sの関係は、           n : 主量子数                   n>0  (正整数)           l : 軌道角運動量量子数                l=0〜n-1  (整数)           j : 合成角運動量量子数 j=l+s <j=l±(1/2)>   j>0 (整数)           s : スピン量子数    s=±(1/2)    水素原子(Z=1)の場合、1s1/2(l=0,j=1/2)、2s1/2(l=0,j=1/2)、2p3/2(l=1,j=3/2)、2p1/2(l=1,j=1/2)、                   3s1/2(l=0,j=1/2)、3p3/2(l=1,j=1/2)、3p5/2(l=2,j=1/2)・・・・・のような組み合わせとなる。 理科年表の実測値と、シュレーディンガー方程式の解・ディラック方程式の解の対比を右上図に示す。細かい数値を無視すれば、     いずれの方法でもよい一致を示す。     しかし、シュレーディンガー方程式では表せないスペクトルの微細構造(スピンと軌道角運動量の相互作用によるスペクトルの分離) を、ディラック方程式では説明できる。とは言え、3S1/2→2S1/2と3S1/2→2p1/2とで同じ値を示すなど完全ではない(これはラムシフト と呼ばれ、場の理論(電子が光子を放出し再び吸収するという光子の生成消滅などを論ずる理論)における高次の摂動論で説明される)。    

(d)電磁場中の荷電粒子の磁気モーメント解

       物質による磁性は、荷電粒子のもつスピンが原因であることが今では分かっている。そのスピンの持つ磁気双極子モーメントがディラック
       方程式からどのように導かれるかを以下に示そう。
                                    

  <古典力学によるボーア磁子>

まず、磁気双極子モーメント(簡単に磁気モーメントと言う)とは何か、また、微小円形電流の作る 磁場との比較で得られる角運動量による磁気モーメントとはどんなものかを簡単に復習して置こう。 <磁気モーメント>  距離d離れた磁荷±qmのペアがあるとき、次式で定義されるMを磁気                  モーメントという。           <同上エネルギー> 外部磁場 Bext の中にある磁気双極子の持つポテンシャルエネルギーは 次式で与えられる。 外部磁場と磁気モーメントが垂直の位置をポテンシャルエネルギーの基準                  として、U=2∫F・dx=2∫Fzdz=2∫(qmBz0)(d/2sinθ)dθ=-MzBzcosθゆえ、           <円形電流 I と磁気双極子の作る磁場> それぞれの中心から十分遠方 r にある点P(r>>a)での磁場は、それぞれ                     両者は同じ形をしており、磁気双極子と円形電流は等価であると言える。この2式の比較から、次の関係が導ける。           <角運動量と磁気モーメント>                  エネルギーのもっとも低い状態は、外部磁場の方向に角運動量ベクトルが向き、磁気双極子では外部磁気の方向に磁気                  モーメントのベクトルが向く(すなわちN極がその方向に行く)状態である。。                  荷電粒子の角運動量 L および荷電粒子による電流Iは、それぞれ、(電子が1周する時間T=2πa/v)            M=ISであるから、角運動量による磁気双極子モーメント M は、           ボーア磁子>    ボーア磁子とは、ボーアの原子模型において、基底状態にある電子の角運動量による磁気モーメントμbのことを言う。 基底状態の角運動量は、ディラック定数(hバー)であるから、質量を電子の質量 meとして、( B=(0,0,B) & L=(0,0,L) )             磁気モーメントμBと角運動量 L との比例係数を磁気回転比という。 角運動量には、軌道角運動量 L(磁気量子数 mL)・スピン角運動量 s (スピン磁気量子数 mS)などがあるが、それらから 生ずる磁気モーメントμを、それに対応する磁気回転比が、ここで述べた軌道角運動量に対応する磁気回転比の何倍か として、表現する。             この係数をg因子という。このように表現すると、それぞれの角運動量に対し、次のような値を持つ。                     

  <ディラック方程式による磁気モーメント>

既に述べたように、自由粒子のディラック方程式は、2つの成分として、つぎのように書き換えられる。           但し、前述の自由粒子のディラック方程式の解(u1,u2,u3,u4)を用いて、          
    ここで、電場との相互作用を考えるため、E→E+eV、pp+eA(ここでは q=-e としている)を考慮すると、方程式は、           さらに、シュレーディンガー方程式では静止質量を無視しているので、これを追加して、           と置き、これを上式に代入すると、          
          第2式は、クーロンポテンシャル eV および 運動エネルギー∂/∂t が mc2 に比し極めて小さいとすると(→)のように近似ができて、           この近似式を上の第1式(右側)に代入して、           後は、パウリ行列の関係式 (σP)(σQ)=PQ+iσ・(PxQ)を用いて変形すれば、( a×a=0 )                  また、第2項( )内をχに作用させると、( a×b=-b×ap×A=-i(h/2π)rotA=-i(h/2π)B )                             であるから、以下の経験的なパウリの方程式が得られる。          

    この式を更に変形する。今、B=(0,0,B)=(0,0,Bz)とすると、B=rotAであるから、A=(-1/2yB,1/2xB,0)と書ける。従い、A2=(1/4)B2(x2+y2)、     A・p=A=-i(h/2π){ Ax(∂/∂x)+Ay(∂/∂y)+Az(∂/∂z)}=-i(h/2π){(1/2)B(x∂/∂y-y∂/∂x)}=(1/2)B{-i(h/2π)(x∂/∂y-y∂/∂x)}=(1/2)BzLz =(1/2)B・Lであるから、第1項を展開して整理すると、次式を得る。( s=(1/2)(h/2π)σ )           [ ]で記す最終項は水素原子の場合微小なので無視できて、{ }内 第3項が軌道角運動量と外部磁場との相互作用によるポテンシャルエネルギー、     第4項がスピン角運動量と外部磁場との相互作用によるポテンシャルエネルギーを表す。     このポテンシャルエネルギーは−μBと定義しているので、スピンの持つ磁気モーメントμsは、      (refではB=(0,0,B)=(0,0,Bzとしている)           μSに負符号が付くことは、磁気モーメントとスピン(角運動量ベクトル)は反平行である(電子の回転による電流は回転とは逆向き)と言うことである。 スピン角運動量sの磁気量子数 mS=1/2 ( szの固有値=(1/2)×(hバー) )であるから、磁気モーメントμS は、上の結果とg因子を用いた表現を比較して、               上に求めたディラック方程式の解によれば、g因子は、丁度 g = 2 となる

原子では、それぞれを μL、μS、全体を μ とすると磁気モーメントは、電子を添え字e、陽子を添え字p で表して、                               すなわち、スピンに関するg因子(ge,gp)は2であり、陽子の質量が電子のそれに比し大であるので、原子の磁気モーメントは、電子の磁気モーメント     に等しいと言える。さらに言えば、多電子原子では、合成角運動量で扱い、電子の軌道角運動量の磁気的効果は互いに相殺し小さくなるので、全体の     磁気モーメントは、不対電子のスピンの磁気モーメントで決まると言える。

ところが、g因子は極めて精度高く測定されており、その実測値は、           この誤差は、場の理論における電子による光の放出・吸収過程を摂動法的に計算することにより説明される。それは、微細構造定数αの冪級数で     表すことができ、2次摂動までの計算では、次のような値が計算されている。           高次の摂動では発散するため、繰り込み理論 必要となり、それによると、gは実験値と10桁まで合致する驚異的な結果をもたらすという。 電子として扱われるディラック粒子は、点粒子で、g因子は厳密に2である。g≠2ということは、観測される電子は点粒子ではなく、裸の     電子の周りに光子の雲を纏っていると解釈され、電子そのもの自身の性質は観測不可能であるということを意味する。


(3)ゲージ理論〜可換ゲージ変換U(1)(電磁場)と非可換ゲージ変換SU(N)(ヤン・ミルズ場)

ゲージ変換 ゲージ場の強さ 全ラグランジアン密度
可換ゲージ変換(電磁場)
ディラック自由粒子場Lの位相変換U(1)対称性要請



共変微分採用→ゲージ場



位相変換・ゲージ変換








導入ゲージ場の強さ














相互作用項の出現                              




非可換ゲージ変換(核力場)
ディラック自由粒子場Lの位相変換SU(N)対称性要請



但し、

共変微分採用→ゲージ場



位相変換・ゲージ変換

        










導入ゲージ場の強さ














相互作用項の出現                              



      [注] 波動関数の変換 e±iω 、共変微分 Dμ=∂μ±igAμ の符号次第では次のように、ゲージ場変換 A'μ=Aμ±(1/g)∂μω、ゲージ場との相互作用
          (ネーターカレント)の符号が変わる。
                    
                      
                      
                      
           この扱いは、ネーターカレントJμを用いた、ゲージ場Aμとの相互作用項の符号のどちらを採用するかの問題であり、教科書
      又は扱う場により様々である。本サイトでは統一的に書けておりませんので注意深く読んで下さい。


(a)ゲージ場とゲージ変換


「場」というのは、みんながよく知っているような重力場・電磁場などのことである。重力場とは、その場にこれと相互作用する質量を 有する粒子を置けばそれに重力という力が働く場のことを言い、電磁場とは、その場にこれと相互作用する電荷を有する粒子を置けばそれに電磁気力という力が働 く場のことを言う。このように、何らかの場を導入するとそれと相互作用する粒子があってそれに力が働く。これらの場を総称して「ゲージ場」 という。

標準理論は、ラグランジアン密度の対称性を要請することは既に述べた。ラグランジアン密度の対称性を要請することからゲージ場が導入され 粒子場とゲージ場の相互作用が導入される。このことをゲージ化・ゲージ原理という。

前項(2)で見た "全系(自由粒子と電磁場の相互作用)のラグランジアン"は、ローレンツ力が導出できるようにハミルトニアンで pp−qAの置き換えで得られたものであるが、この相互作用が上で述べたように対称性を要請することから導入 されることを見てみよう。

以下の説明は、既に述べた、次のような自由粒子のラグランジアン密度を出発点とする。(ψ は、ψの複素共役の転置)
        


@大域的ゲージ変換

波動関数は4成分を持ち、一つの組はエネルギー正でスピンが↑↓の2成分であった。これを抽象空間(内部空間)における平面での 2つのベクトルと見て、平面内での回転すなわち次のような位相変換(後述の<参考1>「回転座標と位相変換」を見てほしい)を受けることを考えよう。
        
すると、運動項のラグランジアン密度は、次のように変換される。
        
従い、ラグランジアン密度は、ωが時空の場所によらず一定であるならば、∂μω= 0 であるから、次のように変換される。
        
すなわち、ωが時空の場所によらず一定であるならばラグランジアン密度は不変である。これを大域的対称性<大域的ゲージ変換、 大域的位相変換 or 大域的 U(1)変換(U(1)とは1×1のユニタリー行列すなわちU(1)=exp{iω}で、U(1)=exp{-iω}、 U(1)U(1)=I)>という。


A局所的ゲージ変換

ωが場所によって変わる場合、∂μω≠ 0 であるから、@でみたように運動項は対称性を示さず、そのままでは、ラグランジアン密度は変化してしまう。 すなわち、運動項の微分∂μでは、対称性のある運動項とならない。

従い、或るベクトル Aμを用いて次のように定義される共変微分μを用いなければならないことが分かる。(共変ベクトルの数学的意味は専門書を参照してください)
          
このように導入されるベクトル場 A のことをゲージ場という。


この時、そのベクトル場 A が、
        
のように変換されるとすると、共変微分で表された運動項は、変換 ψ= eψに対し、次のように変換される。
        

この関係を用いると、再定義されたラグランジアン密度Lは、∂μω≠ 0 であろうとなかろうと、変換により不変である(対称性を持つ)ことが分かる。
        
尚、共変微分Dμの変換は、U = e ( U = e-iω、UU = I、ψ' = Uψ )と置けば、次のようにも表すことができる。
        
また、A の変換は、Uを用いれば、次のように表すことができる。( 実際、下式に U = e を代入すれば、Aμ'=Aμ-(1/q)∂μω となる)
        

                                       <参考> 導出

                                            共変微分で表された運動項は、Dμ' = UDμU、UU = I を用いると、 
                                
                                
                      両者を比較すると、
                                
                                            右から、U を掛けて、移項整理して、
                                
                                            また、UU = I すなわち ∂μ(UU )=(∂μU)U+U(∂μU)=0 を用い変形すると、
                                
                                            

尚、Dμ' = UDμUであることと、Dμ'ψ'=U(Dμψ)はとは、同じことを意味する。                                  
以上のように再定義されたラグランジアン密度は、変形すると次式のようにゲージ場Aμと粒子の相互作用項Aμjμが明確になる。
この jμネーターカレント (粒子数密度の流れ)という。符号は、電磁場のラグランジアン密度に現れる電流密度(電荷密度の流れ)qjμ=|e|jμ に合わせてある。)
        
        
        
ここで見たように、ωが場所によって変わる場合、ラグランジアン密度の対称性を要請すると、ゲージ場が導入され、且つラグランジアン密度が、 自由粒子のラグランジアン密度のほかに、ゲージ場との相互作用の項 (または AμJμ )が必然的に導入される

例えば原子核など外部電荷・電流分布を Jμ とし、上にみた荷電粒子の流れ jμ を合わせた全体的なラグランジアン密度は、次のように表される。
        

以上を整理して記すと、次のようになる。すなわち、粒子場ψとゲージ場Aμは共変微分Dμを通じてのみ結合し、
        
ωを任意の関数(ω=qλ:qは定数)として次のゲージ変換(ψの位相変換Uと同時に以下のゲージ場Aμの変換を言う)
        
        
の下でラグランジアン密度 は不変となる。(新しい場 Aμ を導入したので、 Aμ の運動項 Fμν を追加する。 電磁場のラグランジアン密度 FμνFμν が上のゲージ変換で不変なことは、 既に述べた Fμν の不変性より自明である)
        
このとき、共変微分Dμの変換は次のようになる。
        

ここに、q を結合定数という。1次元のユニタリー変換 u(1) の場合、粒子場はスピンを持ち、ゲージ場は電磁場である。そして、その結合定数であるqは電荷 −e のことである。




                      <参考1> 座標回転と位相変換(対称性とユニタリー群の生成子)
                             3次元空間座標x(x,y,y,z)において、z軸周りの微小回転dθzによる変換(無限小変換)
                           
                             を考えると、回転行列でのsinθ、cosθの微少量をとり、テーラー展開を行って、
                           
                         
                             ここで、以下の角運動量およびその演算子の関係を使った。
                           
               微少量角回転dθの繰り返しで回転角θとなるとすると、dθ=θ/N と置いて、U(θ)が次のように得られる。
                                                        
                                                或いは、微分 dU(θ)=U(θ+dθ)-U(θ) を用いて、以下のように微分方程式からも得られる。
                                      
                                      
               すなわち、U(θ)は、回転行列であって、角運動量 Lz を生成子とするユニタリー群である。
               このユニタリー演算子を波動関数ψ= A exp{i(2π/λ)x-ωt}に作用させることは、波動関数の位相変換を行うことと同じことである。
               
                             ユニタリー変換により対称性がある場合、その生成子は次のように対応する物理量を保存する。(これをネーターの定理という)
                                   空間並進対称性   (運動の保存)  
                    空間回転対称性   (角運動量の保存)  
                    時間推進対称性   (エネルギーの保存)  
                              

               生成子を、角運動量演算子 Lz にかえて、スピン演算子 Sz とすると、                        最後の等号は、下の<参考2>を参照してください。 <参考2> 行列の指数関数                   (1)一般論 : 行列Aの指数関数は、次のように展開出来て、この無限和は必ず収束することが知られている。                                              関連公式                                                                                                                                   例示                                                     (2)変換U : 次項で説明するヤン・ミルズ場の変換行列Uは、次のような内容を意味する。( Ta = (1/2)σa )                              

(b)ヤン・ミルズ場

ヤン・ミルズは、β崩壊を起こす弱い力の理論を作ろうとして、陽子・中性子の質量がほぼ等しい、すなわちそれらは互いに変換し合うものと考え、 4次元時空とは別に、内部空間での位相変換を理論に取り込んだ。これをSU(2)ヤン・ミルズ場という。
これは、電子が内部空間であるスピン空間でスピンの第3成分±1/2のスピンを有し互いに変換し合うことと同じである。前項(a)<参考1>で示した ように、内部空間の変換は、exp{-iθzσz/2}の形で表されるが、これを参考にして、ヤン・ミルズ場を構築する。

ヤン・ミルズ場では、スピンの2つの成分を考える代わりに、アイソスピン空間と呼ばれる内部空間で、陽子・中性子のようにフェルミオンを含む2つの成分を考える。すなわち、
        
但し、φ12 は通常の4成分のディラック場(粒子場)であるが、これを2重項という。(発想の原点は、アイソスピン+1/2を陽子・アイソスピン-1/2を中性子 として区別するものである。アイソスピンは、陽子・中性子の区別だけでなく、一般的にフェルミオンの2つの成分を区別する。)

ここで、ψの2つの成分を混合する変換Uを次のように定義する。(ここで、a=1〜3 で、ローマ字 a についても和をとる。)
        
        
        
ここに、σaはパウリ行列、εabcはレビ・チビタ記号、TaはSU(2)の生成演算子である。

尚、ψを3成分とし、a=1〜9としたものを SU(3) と言う。以下では、SU(2)について説明するが、本質的には、SU(3)でも同じである。


このような内部空間の座標の回転U=exp{iωaTa} を用いて、以下の変換を行う。(ゲージ場をWμ(Wμ1,Wμ2,Wμ3) とする。)
        
        
        
        
尚、共変微分の変換は、次のようにも書ける。
        
ゲージ場 Wμaの強さ Fμνa( a=1〜3)は、電磁場の強さ Fμν=∂μAν−∂νAμ に対応するものとして、共変微分を用いて、

        
        
        

を追加して、以下の局所対称性を有するラグランジアン密度が得られる。

        

ここで導入されたを、ヤン・ミルズ場という。( 尚、U(1)変換の時はアイソスピン空間ではないので、 Taがなくなり、電磁場で考えた関係式となる。)



                  <補足1> SU(2)変換の関係式
@ 内部空間での回転を表すUとUの関係は、σaがパウリ行列であることを考慮し、T2=iT2'と置くと、(T2')t=-T2'であるから、                           すなわち、A=-Aであるから、                           A これが行列計算であることが感覚的に分かるように説明してみよう。内部座標の回転は、微小回転の関係が成り立てばよいので、               微小なωに対して、Uは次式で表される。                            従い、前項(a)<参考2>(2)で示したように具体的に行列で書くと、その複素共役が次式となることは容易に分かるであろう。              ωが微小であることから、2次以上の項(ex (ω1)2, ω1×ω2 等)は無視できるので、次のように、UU = I 且つ det(U)=1 で あることが分かる。即ち、Uは特別(detU=1)なユニタリー行列U(2) ie Special Unitary Matrix SU(2)であるということである。                           B パウリ行列を具体的に計算してみれば分かることであるが、σab は可換ではない。すなわち、                                従い、Ta=(1/2)σaであることより、              このように、互いに交換しないものを含む生成子(例えば、この例ではTa)によって定義されるゲージ変換               の下で不変であるようなゲージ理論を非可換ゲージ理論という。

                  <補足2> ゲージ場の変換式とヤン・ミルズ場の対称性
@ ゲージ変換 W'μaTa=UWμaTaU+(i/g)(∂μU)U は次のように導かれる。 前項(a)A局所的ゲージ変換<参考>(U(1)として説明)で示したように、SU(2)に対しても、次の関係が成り立てば、               ラグランジアン密度の運動項 の対称性が保てる。                            従い、Dμ=∂μ+igWμaTa と置くと、                         上2式の右辺を比較し整理すると、いま求める関係が得られる。              
A また、ゲージ場の変換 W'μ=Wμ+(1/g)∂μωabcWμωc は、次のように導かれる。               U=e とすると、              と置けるのであったから、UU=I を使い、ωの微小回転を考えるので、ωの2次以上の項は0と置いて、                           ところで、Tii/2 は行列であるが、ωi,Wμiはスカラーであるから、これらはどこにおいてもよいから、             同様に、       であるから、パウリ行列の性質 [σij]=σiσjjσi=2εijkk を使って、       従って、             アインシュタインの和の規約を使って書き直すと、      
B 場の強さ Fμν と 場の強さのラグランジアン密度 LG およびその対称性は、次のように導かれる。        ゲージ場の強さを、電磁場の強さを参考にして、以下のように表した。                           ところで、Aで計算したように、   
のように変形できるから、   
従い、最初の式に代入して、Fμν は次のように表すことができる。                   Dμ=∂μ+igWμaTa であるから、Dμ,Dν の交換関係は、[σij]=2iεijkσk 及び ここで導いた Fμνa を使って、                          従い、D'μ=UDμU を使って、FμνUaTa は、次のような変換を受ける。                     電磁場と同様に、このゲージ場に対応するラグランジアン密度を、       と置けば、       となり、ゲージ変換に対し不変ではない。しかし、行列 A 、ユニタリー行列U(UU=UU=I,U=U)に対しトレースは、 Tr(UAU)=Tr(UAU)=Tr(A)であるから、ラグランジアン密度として、その行列のトレースに置き換えると、       ゲージ変換に対し不変なラグランジアン密度となる。               具体的にトレースを求めるために、行列を計算すると、       であるから、                   となり、       最終的に、電磁場のラグランジアン密度と同じ形になるように係数を以下のように設定すると、      

この理論の意味するところは、2つの粒子(例えば陽子と中性子)がアイソスピン空間と呼ばれる内部空間(電子のスピン空間に相当)にあって、 アイソスピン第3成分T3によって区別されるように作られているということである。

                  <参考> 西島ゲルマンの関係(電荷Q・アイソスピンT3・ハイパーチャージY)
今、陽子p、中性子nからなる2重項ψを次のように書くと、パウリ行列σ3は下右のような行列であるから、             
アイソスピンは、以下に見るように、T3を固有状態にとり、1重項なら0とする。従い、陽子のアイソスピンは 1/2、 中性子のそれは−1/2 となる。                            2重項の作り方で上下を逆にすれば、T3は符号が逆になる。このような関係はクォーク2重項(u,d)でも同様である。 弱い相互作用が働く素粒子の持つ量子数が弱アイソスピンと言われ、弱い力との相互作用のし易さ(荷量)でもあるため、               弱荷とも呼ばれる。これに対し、強い相互作用(アイソスピン)に対する色荷(色の3原色を模し赤・青・緑と呼ぶ)、 電磁相互作用に対する電荷、重力相互作用に対する質量に相当する。               上に示したのは、2重項での SU(2) 変換の生成子がアイソ スピンT3と呼ばれるのに対し、1重項での U(1)変換の生成 子Yをハイパーチャージ(超電荷)と呼び、電磁場での U(1) 変換の生成子Q(これを電荷と呼ぶ)との関係は、以下の如 くで、西島ゲルマンの関係と呼ばれる。                            この関係は、余りにも多く発見された粒子を右図(バリオン               の例)のように整理すると、きれいに纏められることからき ている。               特に弱い相互作用での関係、例えば左巻き電子ニュートリノ・電子の2重項ψL(ψνee)と、右巻き電子の1重項で 電子の場を作ると、上と同じSU(2)変換が出てくるので同様の結論が得られる。 すなわち、弱アイソスピンT3は、この例では電子ニュートリノが 1/2、電子が−1/2 となる。 従い、弱ハイパーチャージは、電子の電荷 Q=−1、電子ニュートリノの電荷 Q= 0 ゆえ、次のようになる。 <左巻き電子>    <左巻き電子ニュートリノ>    <右巻き電子>   

このように内部空間として2×2のユニタリー変換 SU(2)で理論を構成すれば、弱い力を表すウィークボゾン(2×2行列の自由度4-1=3より 3種のボゾンie W±,Z0が導入される)および、3×3のユニタリー変換 SU(3)で理論を構成すれば、強い力を表す グル―オン(3×3行列の自由度9-1=8より8種のグル―オンが導入される)で、素粒子に働く力を説明する理論が出来上がる。

             





(4)ヒッグス場理論 (質量項の禁止とヒッグス場の導入)

ボゾン質量 フェルミオン質量 全系(含む相互作用・ヒッグス場)
ゲージ場
<Higgs機構>
















<獲得質量>























<獲得質量>










詳しく書けば






         

         
         

         






      [注] 波動関数の変換 e±iω 、共変微分 Dμ=∂μ±igAμ の符号次第では次のように、ゲージ場変換 A'μ=Aμ±(1/g)∂μω、ゲージ場との相互作用
          (ネーターカレント)の符号が変わる。
                    
                      
                      
                      
           この扱いは、ネーターカレントJμを用いた、ゲージ場Aμとの相互作用項の符号のどちらを採用するかの問題であり、教科書
      又は扱う場により様々である。本サイトでは統一的に書けておりませんので注意深く読んで下さい。


(a)対称性と質量

@局所的ゲージ対称性とボゾン質量の禁止

ヤン・ミルズ場のラグランジアン密度を構築する際、粒子場にゲージ場の運動項を追加した。もし、ゲージ場 Aμ の運動項に対応した 粒子が質量mAを持つならば、更に次の質量項をも追加する必要があろう。
        

                <参考> 自然単位系での各物理量の次元と質量項

                     自然単位系(c=1,;[L]=[T] & [M]=[L]−1=[T]−1)では、すべての量は質量の次元 [M] で表され、
                                   
             且つ、     
であるから、素電荷 e の次元は無次元である。すなわち、     
                     このことから、に現れる、電磁場を始めとするゲージ場Aμで表される AμAμの項の係数Kは [M]2の次元                      を持つ、すなわちKは、質量 mAを表し、KAμAμは(1/2) mA2を表す。同様に、粒子場ψで表される の項の                      係数K’は [M]1の次元を持つ、すなわちK’は、質量 m を表す。                       但し、KまたはK’に含まれる係数 1/2 または 1 は、以下に示す、スピン0・質量mのスカラー場φを扱う クライン・ゴルドン方程式、スピン1・質量mのベクトル場Aμを扱うプロカ方程式(m=0ならマックスウェル                      方程式となる)、または粒子場ψを扱うディラック方程式を導くラグランジアン密度の式に倣っている。                                                                                    

すなわち、質量項は、                                                                                    
局所的ゲージ変換の説明でラグランジアン密度がゲージ変換で不変であることは既に見たが、ゲージ場Aμに対するは、 局所的ゲージ変換では∂μω≠ 0 であるから、Aμが電磁場の場合、
        
となり、ゲージ場の質量項があるとラグランジアン密度はゲージ不変ではない。(Aμがヤンミルズ場すなわちWμaの場合、 Wμωが付くがこの関連項も0とはならず、ゲージ不変ではない。)

すなわち局所的ゲージ対称性を要請すると、ゲージ場の質量は0でなければならない

電磁場のゲージ粒子 ie 光子の質量が0であることは問題ないが、ウィークボゾンなどは質量を有するため、ヤン・ミルズ場のラグランジアン密度 は見直さなければならない。


Aカイラル対称性とフェルミオン質量の禁止

また、ディラック場のラグランジアン密度は、以下の如くカイラル対称性を満足するためには、物質粒子 ie フェルミオンの質量は0でなければならない。
γ行列のカイラル表現ならびにその性質は、以下の通りであるが、(eiγ5λの絡む計算は行列の指数関数の説明でλ微小として計算すれば分かり易いであろう)
        
        
この行列で表される大局的カイラル変換
                
に対し、ラグランジアン密度は次のように変換される。
        
        
        
        
最終式の質量についている係数は0ではないため、質量=0ならば、カイラル対称性が成り立つが、質量≠0ならばカイラル対称性が成り立たない。すなわち カイラル対称性を要請すると、粒子(フェルミオン)の質量は0でなければならない

                      <参考1> ヘリシティー(螺旋を意味する)
                             
                             スピンの回転軸の運動量方向の射影をヘリシティという。

               質量を持たない粒子を考える。この粒子の運動方程式は、、m=0 と置いたディラック方程式 Hψ=Eψ(但しH=cα)
               から次の式が得られる(これをワイル方程式という)。満たすべき条件は αiαjjαiijであるが、パウリ行列が 
               σiσjjσiijであったからαi=±σiに対して、2つの式が得られる。すなわち、4成分スピノールψをψ(ψLR)
                             として 、
                                                
                             この平面波解は、ψiならば、
                                 
                             であるから、上式に代入して、
                                 
                             Ep=cp0=c|p|<相対論 E2=(cp0)2+m2c4、4元ベクトル(E/c,px,px,px)参照>であるから、
                                 
                                       
                             演算子hを以下のように定義すると、演算子hは固有値 ( or 単に−1/2 )を有する。
               このことを正のエネルギーを粒子は−1/2のヘリシティを有するという。
                                 
                             負のエネルギーを持つ場合は、p0=-|p|であり、且つ反粒子と考えることで運動量も−pとなる
               から、次式が得られる。すなわち、uLの負のエネルギーにたいしてはヘリシティは+1/2となる。
                                 

               これらをイメージ的に表すと、ヘリシティ演算子 h は、スピン軸の運動量方向への射影を意味し、
                             正のエネルギーを持つψLは、進行方向に向かって左巻きに自転していると考えられる。
               ψRは、これと逆になり、正のエネルギーを持つψRは右巻きに自転している。
                                                                 

                             質量を持つ粒子は高速以下の速度であるから、静止系でvで移動する粒子より早い座標系で見ると
               スピンの回転軸ベクトルは変わらないが、運動量ベクトルが逆向きとなるので、ヘリシティがり、
               変わってしまう。すなわちヘリシティは不変ではなくなる。一方、光子のように質量0の粒子は光速
               で移動するので、どの座標系からみてもヘリシティは不変である。

                      <参考2>カイラリティ (両掌の関係 ie 鏡像関係を意味する)
                             
                             質量を有する粒子の運動方程式は、質量0の粒子の波動関数ψLRを使って、同様にして、                          
                                  
                                  
                             このように、質量を有する粒子は、右巻きと左巻きのヘリシティが混じったものとなる。

               γ行列として、カイラル表現(ワイル表現)を用いると、ψLRは次式で取り出すことができる。
                                      
                                 
                                   
                             ここに、(1/2)(1±γ5)を射影演算子という。
                
               更に、演算子γ5を使えば、次の関係が得られ、このγ5の固有値±1をカイラリティという。
                                      
               
                             質量を有する粒子のヘリシティは、観測する座標系次第で正にも負にもなるが、カイラリティは相対論的に不変である。
               一方、質量ゼロの粒子のヘリシティは上に述べたように観測する座標によらず不変であり、且つカイラリティも不変である。
               すなわち、カイラリティとは、相対論的に不変な物理量であり、ヘリシティの相対論的拡張である。

               カイラル変換とは、次のような変換を言い、この変換に対してラグランジアン密度が不変であることをカイラル対称性という。 
                                   
               座標の回転は微小回転の重ね合わせであることは既に述べた。カイラル変換の微小回転は、次式で表され、
                                   
               従い、ψLRに対し、回転角は逆符号でなければならない。従い、カイラル変換は次のようにも書ける。
                                   
                                   




               

(b)ヒッグス機構(ボゾン・フェルミオンの質量)

このような対称性の議論から、フェルミオン・ボゾンに質量を持たせるために導入されたものがヒッグス場の理論である。

@スカラー場(ヒッグス粒子)

このような場としてスカラー場を考える。スカラー場では、E2=c2p2+m2c4であるから、この式で微分演算子を適用すると、
                
これを整理すると、次のクライン・ゴルドン方程式を得る。
                
アインシュタインの和の規約を用い、自然単位系で書き直すと、
                
この方程式を与えるラグランジアン密度は、φを実スカラー場として、
                
以上は、運動項および質量項のみからなる自由スカラー場のラグランジアン密度である。

一方、運動項およびポテンシャル項V(φ)から成るラグランジアン密度を考え
                
ポテンシャルV(φ)を冪級数で展開すると、
                
1次の項はφの再定義で消去でき、φ3以上の項は相互作用(ex φ3の項は2つのφが衝突し1つのφを生ずる、またはその逆) を表すが、奇数項は空間反転 ie φ→−φに対する対称性の要請より消え、さらに、繰り込み可能性を課せば、4次元時空ではφの4次までしか 現れない。
g2=−μ2、g4=λと置き換えると、以下のラグランジアン密度を得る。
                
今、−μ2を質量 m (この場合 μ2>0)と見なすと、このラグランジアン密度は、運動項および質量項のみから なる自由スカラー場のラグランジアン密度
                
を再現している。

このラグランジアン密度を用いて論ずる理論を、φ4理論という。このポテンシャルは、微分すれば分かるように、φ=±vで最小値を2つ持つ。
                
この最小値を与えるφ0は、場の基底状態であり、この基底状態は真空期待値<φ>0で表される。(また、下式括弧内は、±vに対する真空を示す)
                
ここで、演算子としてのφの変換を Z-1φZ=−φとしたとき、
                
このように、真空期待値<0+|φ|0+>はラグランジアン密度の持つφ→−φの対称性を持っていない。
そこで、最小値周りを考え、真空の期待値vからのずれ(ゆらぎ)を摂動的にφに加え
                
これをラグランジアン密度に代入すると、基底状態近傍でのラグランジアン密度が次のように求まる。
                
すなわち、φの2乗項<φ=|φ0|+σ=v+σと置いているから (1/2)m2φ2 ←→(1/2)m2σ2>である質量項の係数より、スカラー場(スカラー粒子)が質量 m =(2μ)2 を持つことが分かる。更に 元々のラグランジアン密度での場の変換φ→−φ(近傍ではσ→−σ)に対する対称性を持っていない。このように元々持っていた対称性がなくなる (見えなくなる)ことを、自発的対称性の破れという。



以上の議論を、大局的ゲージ対称性を有する複素スカラー場に拡張する。 ラグランジアン密度、複素スカラー場、大局的ゲージ変換は以下の通りとする。(φ*はφの共役複素数)
                
                
                
実スカラー場の時と同様にして、ポテンシャルの最小値を与えるφ0は、次の関係にある。
(右図参照)
                
                
                
すなわち、複素平面の任意の角θ(連続的な数)によって真空は区別され、θ1≠θ2なら、
<0θ1|φ|0θ2>=0となり(真空が無限個に縮退)、基底状態はポテンシャルの底の半径v
の円に沿って無限に存在する。
そこで、基底状態の位置をφ1=+v、φ2=0 と選び、そこからのずれを2つの実数場η(x),ξ(x)
として、摂動的に加え、
                
                
として、上のラグランジアン密度に代入して、(v22/λに留意)
                

ところで、この複素スカラー場でのクライン・ゴルドン方程式を導くラグランジアン密度は、
                
                
                
であるから、質量項があるとすれば、φ1の2乗項すなわちηの2乗項( φ1=|<φ10|+ηと置いているから (1/2)m2φ12 ←→(1/2)m2η2 ) である質量項の係数より、場η(これをヒッグス場またはヒッグス粒子という)は質量(2μ2)-1/2を持ち、場ξは、ξ2のみの項がない(ηと混ざった項しかない)ので、質量を持たない。 つまり、質量を持つ場と質量を持たない場が作られることになる(その質量0のスカラー場ξを南部・ゴールドストーンボゾンという)。さらに、近傍の ラグランジアン密度から大局的ゲージ不変性もなくなっている。


Aゲージ場と複素スカラー場の相互作用(ヒッグス機構)

次に、ゲージ場と複素スカラー場の相互作用を考えよう。ゲージ場を電磁場として扱うことにする。
この場合、ディラック場(フェルミオン場)と電磁場の相互作用を考えた時と同様の共変微分を用い、諸量を以下の通りとする。
                
                
                
                
                
その結果、
                
φの摂動も同様にして、(但し、(Dμφ)*=Dμ*φ*、Dμ*=∂μ−ieAμ、∂μ(η+iξ)∂μ(η−iξ)=(∂μη)2+(∂μξ2)、v22/λに留意)
                

すなわち、場の2乗項のみが質量(1/2mη2η2、1/2mA2AμAμ)を表すので、ベクトル場 Aμ、スカラー場ηがそれぞれ質量 mA、 mη を持つことになり、ξ(南部・ゴールドストーンボゾン)は質量を持たないことが分かる
                

スピン0(スカラー場)の質量0の粒子は現実に観測されていない。このξが消せれば、理論的不都合は解消される。このξの消去は、 η,ξ<<vなら、つぎのゲージ変換を選ぶことで可能である
                
                
                
このようなゲージ変換をすると、
                


すなわち、ゴールドストーンボゾンは消え、ベクトル場とスカラー場が次の質量を持つことが分かる。
(ここでは、ゲージ粒子がヒッグス機構で質量を獲得する道筋を、電磁場を使って説明した。しかし電磁場の量子すなわち光子は質量を持てないので矛盾している ようにみえるが、この辺の事情は、電弱統一理論ですっきり整理される)
                

このように、ベクトル場は質量を獲得し、かつ質量0の場(南部・ゴールドストーンボゾン)は出てこない。これは、簡単に言うと、南部・ゴールドストーンボゾン の自由度を光子は食べることで縦偏極の自由度を得て質量を作り出していると解釈されている。このようにしてベクトル場(ゲージ場)が質量 を得る仕組みのことをヒッグス機構という。ここで質量をもったスカラー場ηのことをヒッグス粒子という。

このように、南部・ゴールドストーンボゾンが出てこない操作を行えばよいことから、複素スカラー場は、最初から次のように表すことでよいことが分かる。
                



                 <参考> 複素スカラー場の表現

                             複素スカラー場は、以下の2通りの表現が可能である。すなわち、2つの実関数φ1、φ2を用いて、
                             複素数の形で表す方法とベクトルのように2つの成分を有する場として表す方法である。
                    
                             2つの方法でのラグランジアン密度の表現を対比して描くと次のようになる。
                      
                             具体的に、ポテンシャルの一部を計算すると、同じ結果を与える。
                      
                      




(c)湯川相互作用(フェルミオンの質量)

粒子場(物質場)ψと、ゲージ場φとの湯川相互作用のラブランジアン密度は、フェルミ相互作用を参考に、次のように導かれた。
                
ここに、yは湯川結合定数といわれるものである。(対称性の要請から得られる項ではない。)

さて、ディラック場のラグランジアン密度は、次の如くであった。(変形については、本項<参考2>参照)
                
このラグランジアン密度が m≠0のためカイラル変換(「カイラリティ」参照)
                
に対して不変でないことは既に述べた。ここで、次のような変換を受ける複素スカラー場
                
を導入すると、カイラル対称性を保つ相互作用として、以下のようなラグランジアン密度を書くことができる。
(尚、φはどこにおいてもいい筈であるが、φを中央に置いた形としているのは、後述のように、ψLが2成分あり、ψRが1成分であって、複素スカラー場φを複素数でなく2つの成分を持つベクトルのような表現を取った時にも、スカラー量となるようにするためである。)
                
                
このような湯川相互作用項( y:湯川結合定数)を導入すると、カイラル対称性を有するラグランジアン密度を作ることができる。すなわち、
                
                
この形は前項(a)で述べた複素スカラー場とゲージ場の相互作用と同じことが言えて、真空期待値<φ> = v/√2 をもてば、
                
ψの2次の項がフェルミオンの質量 mF を表し、次式で与えられる。
                
これもまた、ヒッグス機構と呼ばれる。


                <参考1>湯川相互作用と中間子論  

              ディラック場とスカラー場があり、それらが相互作用する時の相互作用項を
                            湯川相互作用 Lyukawa といい、
                             
                                          
                            このラグランジアン密度から、運動方程式を作ると、
                                
                               
              となる。直観的には、第1式は、フェルミオンψがボゾンφのソースになっているという式で、第2式は、
              ボゾンφがフェルミオンψに吸収されて新しいψができると考えられる式(yφがポテンシャルU=yφ)である。
説明は省略するが、この湯川項から経路積分を駆使して計算すれば、湯川ポテンシャルが導出される。 <湯川の中間子論> (原論文:[PDF]素粒子の相互作用について I 湯川秀樹」で検索してください) 最初の論文は、余り親切とは言い難い論文であるが、以下にその内容を紹介しておこう。
              中性子と陽子の場を記述するため、電磁場のポテンシャル(∂μμA=0)に似た方程式を導入する。             この方程式の解は、U∝(1/r)の形をしている。中性子と陽子の間に働く力のポテンシャルは、クーロン型でなく、               距離とともに減少するものでなければならない。それは、例えば U∝e-λr/r のように表すことができる。               この関数は、波動方程式             の静的な球対称解である。(上右は方程式を満足するが方程式の解としては係数は正負含め任意である。係数の決定は<補足>参照)               この方程式を真空中のUに対する正しい方程式と仮定する。               そして重い粒子があると、U場はそれらと相互作用し、中性子状態から陽子状態へ転化を起こすとした。 点電荷 q の作る電位ポテンシャルUは、次のポアッソン方程式で与えられ、右辺はその源qを表す。             また、電磁場と相互作用する粒子のディラック方程式は、次式で与えられる。             こうした電磁場の関係式からの類推で、中性子と陽子の間に働く力のポテンシャルUを次のように表した。                       フェルミオン場ψを、上下向スピン(中性子 n)と下向きスピン(陽子 p)の2成分を持つものとし、パウリ行列σk を用いて、              この関係を用いて、ポテンシャルU(中性子状態から陽子状態への転移に対応)およびその複素共役U*(陽子状態から中性子状態               への転移に対応)の方程式並びにその解を、(方程式と解との関係は、<補足>参照)                                       として、重い粒子に対し、次のような、スピンを無視した簡単な非相対論的波動方程式を用いる。( Mn、Mp は、中性子・陽子の質量) (ここでは、E=p2/(2m)+mc2を量子化し、電磁場の相互作用項の類推を付加している)             ( [筆者注]この式は、ψn、ψpに対する2つの波動方程式を2成分とするψの方程式として得られる )               この方程式は以下のハミルトニアンに対応する。                   p は粒子の運動量である。Mnc2-Mpc2=D および Mn + Mp = 2M と置くと、定数項 Mc2 を除いて、近似的に以下となる。( Mn 〜 Mp )             点1(x1,y1,z1)と点2(x2,y2,z2)にそれぞれ存在する2つの重い粒子を考え、それらの相対速度は小さいと仮定する。               点2の粒子によって点1に生じる場は、U、U* の解でσ1、σ2をσ1(2)、σ2(2) などと置いたものとなる。 その系のハミルトニアンは、外部場のない場合、                  ( [筆者注]この式も、点1と点2のハミルトニアンが2行のハミルトニアンとして書かれていると見るべきか ) p1p2 は粒子の運動量である。               このハミルトニアンは、プラッツべクセル積分として、             をとれば、最低エネルギー状態は、実験で要請されるとおり、スピン1を持つことになる。 ( [筆者注] このくだり意味不明 ) 論文の内容はここまでである。

              尚、論文には明確な言及はないが、次のように、重い粒子の質量が推定できる。               不確定性関係 僞冲 〜 h/(2π)から、大きなエネルギー 僞〜mc2 を持つ粒子では、寿命冲〜h/(2π)/僞の間に光速 c で               進む距離は、λ程度であるから、次式が成り立つ。λを原子核の直径(2R)程度とすると、重い粒子の質量は、100MeV程度で               電子(0.5MeV)と陽子(940MeV)の中間の値となる。(これが中間子と呼ばれる所以である。)                           

                       <補足> 以下はその補足のつもりであるが自信はない。
              湯川論文で、U、U* の方程式右辺を負符号から正符号に変換すると、解の符号も逆転する。その後に続く方程式もさることながら               最終の式のハミルトニアンのポテンシャル部の符号も正から負に逆転する。 符号をこのようにみて、今、点2を原点とする座標で考えると、p2 = 0 であるから、さらに D = 0 と置くと、点1の運動方程式は、 次のように書ける。             従い、陽子ー陽子、陽子ー中性子、中性子ー中性子のどの相互作用でも、同じポテンシャル −g2e-λr/r (引力)を感じることになる。

               そのポテンシャルは、必ず引力になることは、上に見たようにハミルトニアン形から分かるが、中性子と陽子の場U、U*の               方程式から直接的に、次のように説明される。 場Vは実数でなければならないから、Uと共役複素関数U*の和で表され、(ここでも符号を逆転させる)                                                   すなわち、湯川相互作用項 並びに これを「源」とする静的ポテンシャルV(∂V/∂t = 0)の満足すべき関係は、次式で表される。                         上第2式の球対称解は次のように求められる。右辺=0とするときその解は、任意の係数をαとして、             この方程式を、「源」の位置xを中心とする半径 R の球で体積積分すると、左辺・右辺は、それぞれ、                                     両辺が同じでなければならないから、            
              冒頭に書いたように、場に働くポテンシャルは U=yφ であるが、今の場合 y=g、φ=V であるから、 湯川ポテンシャル Uyukawa は、次のように書け、引力であることが分かる。                        
             

                <参考2>関係式 

(カイラル表現のγ行列の関係式 γμγν = −γνγμ(μ≠ν)、(γ5)2 = 1 を使う)                                                           


(5)標準理論 〜 電磁気力・弱い核力・強い核力 〜

ヒッグス機構で説明する電弱統一理論(GWS理論:グラショウ・ワインバーグ・サラム理論)と、ヒッグス機構を加味しない量子色力学 (QCD理論:Quantum Chromodynamics Theory)を合わせて標準理論という。

両者はSU(2),SU(3)の違いはあるが、共にヤン・ミルズ場をベースとしており、電弱統一理論では、クォークの質量までは議論できるが、クォークとグル―オンの性質や関係は、量子色力学で論じられる。

(質量に限定して言えば、電弱統一理論で得られるクォークの質量は、例えば u,d クォークでは、約 5.5 MeV しかなく、陽子(uud)中性子(udd)の質量である約 1 GeV を説明できない。 この差は、フェルミオン凝縮の1つであるクォーク凝縮(カイラル対称性の破れ)によるとされる。)



                                                                             σa:パウリ行列           λa:ゲルマン行列
                                                                             εabc:レヴィ・チヴィタ記号      fabc:構造定数
電磁場(Maxwell)
電磁&Dirac場(QED)
弱ボゾン場<Yang-Mills場>
電弱統一場(GWS)
強い相互作用(QCD)
対称性 Uem(1)





Uem(1)





SU(2)





UY(1)SU(2)





SU(3)





変換




       
















ゲージ変換 <電磁場 Aμ









<電磁場 Aμ









<ヤン・ミルズ場 Aμ









<ヤン・ミルズ場 Bμ & Wμ











<グル―オン場 Gμ











共変微分
    














    












    













    














    
全ラグランジアン密度
    

    

    

    

ラグランジアン密度/粒子場
    




    




    



    




ラグランジアン密度/ゲージ場















    
















    















    















    















ラグランジアン密度/ヒッグス場
    

    

    


    

ラグランジアン密度/湯川相互作用
    

    

    

    
(クォーク凝縮)
(無数のクォーク・反クォーク凝縮対が充満する空間の中にある別のクォークは、この対との相互作用により動きにくくなる。すなわち質量を持つ)



局所的ゲージ対称性並びにカイラル対称性を満足させるためには、ウィークボゾン並びに粒子(フェルミオン)の質量はゼロでなければならない。そこで、それらの質量項はヒッグス場φ(そのポテンシャルを V とする)との相互作用 (すなわちヒッグス機構、ただしフェルミオンの質量は、ヒッグス場との湯川相互作用 yij ;i,j=1-3世代 )とに置き換えられる。
レプトン(e,νe,μ,νμ,τ,ντ)・クォーク(u,d,s,c,t,b)の各フェルミオン場ψiすべてを合わせた粒子場をΨと表し、 電磁気力と弱い力に関するゲージ場(電磁場 Aμ&ボゾン場( W+、W-、Z0)のベース)を、( Bμ、Wμa(a=1-3) )、 <略記して( Bμ、Wμ )>、強い力に関するゲージ場(グル―オン場)を Gμ(a=1-8)<略記して Gμ> と表し、 且つ、それぞれの場の強さを、BμνBμν、WaμνWaμν<略記してWμνWμν>(大胆に言えば、BμνBμν は電磁場の強さ、WμνWμν はボゾン場の強さに相当する)と表し、 また GaμνGaμν<略記してGμνGμν>、さらに、それらを合わせたものを、新たにFμνFμνと表すこととすれば、電磁場・弱い力の場・強い力の場を、以下のように統一的に表すことができる。 (但し、Dと/の重ね書きを仮にD(/)と書けば、D(/)μDμであり、B(/)・W(/)・G(/)も同様の表現である。 ラグランジアン密度は実数でなければならないので、h.c.はその前の項のエルミート共役(h.c.)を付け加えてある。)

                      

 
                                                                 基本粒子の性質
                                                         電磁気力
                                                        弱い力
                                                         強い力
                                                     ヒッグス粒子
これが、冒頭に示した標準理論の神髄である。



      [注] 波動関数の変換 e±iω 、共変微分 Dμ=∂μ±igAμ の符号次第では次のように、ゲージ場変換 A'μ=Aμ±(1/g)∂μω、ゲージ場との相互作用
          (ネーターカレント)の符号が変わる。
                    
                      
                      
                      
           この扱いは、ネーターカレントJμを用いた、ゲージ場Aμとの相互作用項の符号のどちらを採用するかの問題であり、教科書
      又は扱う場により様々である。本サイトでは統一的に書けておりませんので注意深く読んで下さい。


           ここで、標準理論で用いられる、場の変換と生成子・ネーターカレントについて、若干付言しておこう。

           
     <ネーターの定理>

           ネータの定理とは、ある変換に対して作用積分の変化が0、すなわちラグランジアン密度の変化が0、言い換えればラグランジアン密度が対称である
           ならば、ネーターカレントが定義され、ネータカレントは保存され、その時間成分の3次元積分は、ネーターチャージと言われる保存量を表すという
           ものである。座標の微小変換δxμ、場の微小変換δφに対し、
                     
                    
           とするとき、
                    
                    
                    
                    
           作用積分が変換により変化しないならば、δS=0、従い、上式 [ ]=0、更に、このように定義されたネーターカレント jμは、保存される(連続の式)
      ことが分かる。すなわち、
                    
           また、ネーターカレントの時間成分の3次元積分は、時間によって変化しない、つまり保存量であることが言える。
                    

     <ネーターカレントと生成子>

      ネーターカレントは、<ネータの定理>で説明したように、少し式を変形すると、次式で定義される。
      (この定義が場合により、反対符号で定義されることがある。)
                    
           または、
                    

           座標変換はローレンツ変換など時空の変換が関係する時には問題となるが、アイソスピン空間などの内部空間では、座標は一定で、 と
      おける。この時、ネーターカレントは次式で表される。
                    


      さて、(a)ゲージ場とゲージ変換<参考1>座標回転と位相変換のところで説明したように、z軸周り時計方向にθだけ回転っした時の変換Uは、
           z軸方向の角運動量の演算子 Lzで、次のように表されるのであった。
                    
      この回転を反時計周りにθだけ回転するものとして定義すれば、次のように符号は反転する。
                    

           標準理論では、場の変換として、前者の形式が多用される。この対称群の生成子を G 、微小変換をαとして、
                    
           とすると、ネーターカレントは、次のように表される。
                    
      ネーターカレントを定義した大元の式、∂μjμ=0 において、大局的対称性の変換では、∂μα=0 であることを考慮すれば、ネーターカレントは
      次のように再定義できる。すなわち、
                    
           この定義に従うネーターカレントの時間成分の3次元積分をとると、生成子に対応する物理量 G が保存されることがわかる。
                    

           G = qQ (q>0、電子: Q = -1、陽子: Q = 1 )と置けば、電荷 qQ が保存されることを見て取れよう。また、このように置いたとき、共変微分は、
                    
           q は電磁場における結合定数であるから、一般に、結合定数を g 、生成子を Y とすると、次のような形式で書くことができる。
                    


           










<補足説明(a) GWS(グラショウ・ワインバーグ・サラム)理論/電弱統一理論>


電磁相互作用は U(1) ゲージ対称性で、弱い相互作用は SU(2) ゲージ対称性で定式化できるように見えるが、それぞれ独立したゲージ理論と考え、 U(1)emSU(2)weak とすると、現実と 合わない相互作用が現れる(詳しくは説明しないが、この考え方に基ずく相互作用がベクトル型 () であり、パリティを保存する。しかし、現実の弱い相互作用の荷電カレントは左巻きであり、ベクトル型と軸性型が寄与しパリティを破っている)。 従い、電磁相互作用と弱い相互作用を1つのゲージ理論の異なる成分として表そうとするのが電弱統一理論である。その理論は、直積 UY(1)SU(2) のゲージ変換に基づく。U(1) と SU(2) の対称性が自発的に破れ、その結果、U(1)SU(2) の、破れのない部分群 U(1)emが電磁相互作用になるとするものである。

UY(1)SU(2) ゲージ変換とは次のようなことを言う。 弱い相互作用の荷電カレントは左巻きでであり、また、ニュートリノは左巻きだけで右巻きニュートリノは存在しない。従い、左巻き成分と右巻き成分に対して異なるゲージ変換を考える。そこで、電子と電子ニュートリノ の左巻き成分を SU(2) の2重項、電子の右巻き成分を SU(2) の1重項と考える。
電子ニュートリノ、電子の自由場のディラック粒子をν、e、左巻きを、ψL または Le、右巻きを、ψR または Re などと表すと、
                
                
このとき、ψL、ψR は、次の局所ゲージ変換 U(1) ならびに SU(2) を受けるとするものである。(下右に記す Y や Taを生成子と言う)
                 
                 
合わせて、次のような直積 UY(1)SU(2) の微小ゲージ変換を受ける。
                
                

生成子 Y 、T3 には、電荷の演算子 Q=T3+Y/2 の関係にあり、左巻き電子(Q=-1,T3=-1/2,Y=-1)、右巻き電子では(Q=-1,T3=0,Y=-2)、左巻き電子ニュートリノでは(Q=0,T3=1/2,Y=-1) であることは既に述べたが、 これを用いると、
                
                
すなわち、左巻き成分の2重項は Y の固有状態であり、その固有値は -1 であり、右巻き成分の Y の固有値は -2 である。
また、左巻きの電子と左巻き電子ニュートリノとは弱アイソスピンの異なる状態であることがみてとれる。
このような U(1) , SU(2) ゲージ変換に対応して、導入されるゲージ場を Bμ , Wμ=(Waμ)(a=1〜3) とすると、共変微分は、次のように表される。
                
                
ここに現れる 1/2 の係数は、後で出てくる量をすっきり表すためにこのように置いているだけの意味しかない。

このように、フェルミオンに2重項を導入したことに対応して、複素スカラー場も2重項として、電荷Q=1を持つ複素スカラー場φ+ と、電荷Q=0を持つ複素スカラー場φ0 を導入する。
                
φ+ は電荷1,アイソスピン(1/2)、φ0 は電荷0,アイソスピン−(1/2) をもち、レプトンの2重項と同じ変換を受けることになる。
                





<補足説明(a)−@ レプトン質量/ヒッグス機構> (2重項が出てくる以外は、これまでの総復習に過ぎないので、関連数式を羅列する。)


上に示したような に従う右巻き粒子R・左巻き粒子Lの変換、並びに 4つのゲージ場(B・W)の定義・変換から、各ラグランジアン密度が得られる。








       

            
                
                
                
                
                
                

                
                
                
                

(既述のヒッグス機構の説明では V=−μ2φ2+λφ4としていたが、ここでは+μ2としていることに注意。)


ヒッグス場φの定義、変換、真空の期待値<φ>0から、湯川相互作用・ヒッグス機構による質量項が得られる。

電弱統一理論でのヒッグス機構がそれまでのヒッグス機構と違うところは、左巻きのフェルミオンを2重項としていることである。この為、複素スカラー場も2重項として、電荷Q=1を持つ複素スカラー場φ+ と、電荷Q=0を持つ複素スカラー場φ0 を導入すると、 φ3の期待値v、およびその点からのφ0の実部・虚部の摂動量η・ξを用いて、
       
ここに、前節の「ヒッグス機構」で説明したように、対称性が破れるのはμ2<0 の時であり、真空状態|0>は、φ0の実数場φ3が有限の期待値vをもち他の3つの場の期待値が0である状態であるから、複素スカラー場の真空期待値 vev は、
       
である。
質量を持たない南部・ゴールドストーン場ξを消去するため、前節の「ヒッグス機構」と同様に以下の変換を行う。
       
       
       
       
このようにすると、複素スカラー場は次の真空期待値を持つので、湯川項の表現より、レプトン e の質量がえられる。
       
                
                
                

次に、ヒッグス場の運動項を考えると、前節の「ヒッグス機構」と同様の手続きを経て、ヒッグスボゾン(H)・ウィークボゾン(W±,Z0)・光子(A)の質量が得られる。
    
       
       
       
       
       
       

                
                
                
                
                


      ここでは、下記に定義される式を使った。
       
          
       
       
      この Zμ と Aμ の関係をよく見かける行列形式で書いておこう。
       
ここに、θWは、ワインバーグ角θWと呼ばれ、次式で表される。        

その他(others)はゲージ場とヒッグス場の相互作用または運動方程式に影響しない定数項の集合であり、質量項は、それぞれ、(1/2)mHiggsη2、(1/2)mWW2、(1/2)mZZ2、(1/2)mAA2 である(このように決めている)から、係数の比較により、
                
そして、電磁場に相当するゲージ場 Aμ の2乗項すなわち質量項はなく、光子の質量が0であると言える。

このように、電弱統一理論によれば、ヒッグス粒子 mHiggs が存在し、光子(新しく定義された場 Aμ)には質量 mA がなく、ウィークボゾンが3種(Z± & Z0)存在することが分かる。






<補足説明(a)−A レプトンの相互作用>

さて、レプトン粒子場とゲージ場の相互作用は、
                
より、T=σ/2 として、Wμσ=2WμaTaであるから、
                
ここで、T±=T1±iT2、Wμ±=(Wμ1±iWμ2)/√2 とおくと、
                
となるから、レプトンの弱ハイパーチャージが、左巻きに対して Y=−1、右巻きに対して Y=−2 であることを考慮して、
                
Wμ3、Bμ を Zμ および Aμ で表すと、、
                
                
                
                
最後の定義式では、 Aμ を電磁場と同一と見るので、結合定数は電磁相互作用の結合定数(すなわち素電荷 e )と同一と考える。すなわち、
                
ところで、ここで定義された Jμ±、Jμ0、Jμem(これらを荷電弱カレント、中性カレント、電磁カレントという)は、次のように表すことができる。 (カイラル表現のγ行列の関係式 γμγν = −γνγμ(μ≠ν)、(γ5)2 = 1 並びに を使う)
                
                
                
                
                
また、g sinθW = g' cosθW = e と置いたから、
                
                
                

再び、整理して書き直すと、相互作用は、(ψe を e と表し、且つ素電荷も e と表してきたので紛らわしいので、以下の式では q =−e としている)
                
                
                
                
                

カレント は、始状態を i 、終状態を f として、のように、 右側を始状態(消滅粒子)、左側を終状態(生成粒子)と解釈します。
また、ゲージ粒子例えばボゾン粒子 W が W → e + νe のように、入射する W と相互作用するカレントの電荷が減じる場合、W は負の電荷を持つ(すなわち W )と言えます。

このように考えると、上式1行目は、負の電荷を持つ電子(e)が、正の電荷を有する Wのボゾンと相互作用(吸収)し、電荷を持たない電子ニュートリノ(νe) に変化することをあらわしている。 W± は、粒子・反粒子の関係にあるから、別の言い方をすると、負の電荷を持つ電子(e)が、負の電荷を有する Wのボゾンを放出して、電荷を持たない電子ニュートリノ(νe) に変化するとも言える。 すなわち、上図左側に示した3点相互作用を記述している。
一方、上式2行目は、電荷を持たない電子ニュートリノ(νe)が、負の電荷を有する Wのボゾンと相互作用(吸収)し、 負の電荷を持つ電子(e)に変化することをあらわしている。 すなわち、上図右側に示した3点相互作用を記述している。
更に、上式3行目・4行目は、電子(e)−電子(e)間 ならびに 電子ニュートリノ(νe)−電子ニュートリノ(νe)間のカレントに関与する(電荷が変化しない)から、 これらのカレントと相互作用する Z 粒子や A 粒子(ie 光子、γ粒子)の電荷は0といえる。すなわちウィークボゾンにも電荷0の中性ボゾン Z0 が存在し、電磁場のゲージ粒子である光子 A の電荷が0であることを意味する。

まとめると、電荷を右肩に示せば、各素粒子の電荷は、次の通りとなる。
                



反粒子の絡む相互作用の解釈として、下左図に示すようなミューオンの崩壊を取り上げておこう。このミューオンの崩壊は、当初、下左図のような4点相互作用(フェルミ相互作用)として 理解されていたものであるが、標準理論では、これを下中央図に示すように、2つの3点相互作用ならびにそれを結ぶゲージ粒子の放出・吸収として理解する。しかし下中央図 右側の3点相互作用ではカレントとしての流れになってない。これは反粒子が存在 するためである。反粒子は、質量は同じで電荷の異なるものであるが、理論上では負のエネルギーを持つ。負のエネルギーの扱いを時間を逆行する正のエネルギーを有する粒子 として図示するとカレントとしての流れが見えてくる。このように反粒子を表した図をファインマン図と呼ぶ。下右図のファインマン図では、 反粒子のカレントとしての運動方向を赤字で示している。(勿論現実的には下中央図の方向に移動する)

            

上右図のファインマン図を参考に上記のカレントの式を見てみよう。上記のカレントの式は第1世代のレプトン(e、νe)のものであったが、 これは第2世代のレプトン(μ、νμ)でも成り立つので、(e、νe)を(μ、νμ)に置き換えれたものを追加すれば今考えているカレント の式となる。すなわち、上右図左の3点相互作用では、負の電荷を持つ電子(μ)が、負の電荷を有する Wのボゾンを放出して、 電荷を持たないミューニュートリノ(に変化し、 上右図右の3点相互作用では、電荷を持たない反電子ニュートリノ()ie時間逆行する電子ニュートリノ()が、 負の電荷を有する Wのボゾンと相互作用(吸収)し、 負の電荷を持つ電子(e)に変化することをあらわしている。<[注] W± は、粒子・反粒子の関係にある>




       <参考>パラメータ の値(g, θW, λ)

        ボゾン粒子・ヒッグス粒子の質量の観測値(他にフェルミ定数 GF ・微細構造定数α)より、下記のパラメータの値がえられる。
       
       



       

<補足説明(b) 狭義標準理論(電弱統一理論)総まとめ>(レプトン・クウォーク・ゲージ粒子・ヒッグス粒子 & 湯川相互作用)

ハドロンも含めた理論への拡張は、ハドロンのカレントをクォークレベルで表現することによって行われる。例えば、中性子と陽子は、それぞれ3つのクォーク udd、uud で構成されるので、中性子のβ崩壊はクォークの遷移 d→u で記述できると考えられる。ゲージ理論 では、u クォークと d クォークの左巻き成分は SU(2)の2重項をなし、右巻き成分は SU(2)の1重項をなすと考える。例えば第1世代のみでは、クォークを q (アップクォークを u ,ダウンクォークを d)、 レプトンを l (電子を e ,電子ニュートリノを νe)、左・右巻きを L,R 、世代数を i=1,2,3 と表して、
                
                
と考える。このように3世代にわたる素粒子を以下のように表現することとする。

                        
電荷Q、アイソスピン第3成分 T3、弱ハイパーチャージ Y は、第1世代について書くと、以下の通りである。
各成分に、電荷Q、弱アイソスピンT3を作用させると、
                
                
西島ーゲルマンの関係式 Q=T3+(1/2)Y より、クォークの弱ハイパーチャージ Y は、
                


ラグランジアン密度は次式であらわされる。(以下の式では、添え字 i,j についても、その上付き・下付きに関係なく、同じものがあればその和をとるものする。)
                (ゲージ場強度項)
                (フェルミオン運動項)
                (湯川相互作用項)
                (ヒッグス場項)

                                            
                                            
                                            
Φが、真空期待値 <Φ>=(1/√2)(0,v)tをとるとき、
                
                
とおけば、(ダランベールシアン :□=∂2/∂t2i2/∂(xi)2(i=1-3))
                ( ゲージボゾン W+ 運動項+質量項)
                ( ゲージボゾン W- 運動項+質量項)
                ( ゲージボゾン Z0 運動項+質量項)
                ( ゲージ場ie電磁場 A 運動項のみ、質量なし)
                ( 相互作用項)

                      <補足>式の解釈

                             ゲージ場W,Zには、WμWμ および ZμZμ の質量項があるから、ヒッグス機構により、
                             ウィークボゾンは質量を獲得することがわかる。残りのゲージ場Aには、AμAμで表される
               質量項がない、すなわちゲージ場Aの対称性が残っていることを意味する。弱い相互作用と
                             電磁気相互作用するゲージボゾンのうち質量がないのは光子だけであるので、ゲージ場A
                             は光子を表すと解釈できる。
               このことを数式で示すと、ヒッグス場の真空期待値を<Φ>=(1/√2)(0,v)tととることで、
               UY(1)SU(2)ゲージ変換
                
               の対称性が破れるが、ω1=0,ω2=0,ω3=ω、α=ω/2 に対して、                                                                                                                   
                
               のようになり、電磁場としてのUY(1)変換 ie Uem(1)変換の対称性が保たれるということである。


フェルミオンを含む項は、
                ( クォーク 運動項+質量項 )
                ( クォーク 運動項+質量項 )
                ( レプトン 運動項+質量項 )
                ( W ボゾン相互作用 )
                ( Z0 ボゾン相互作用 )
                ( Z0 ボゾン相互作用 )
                ( Z0 ボゾン相互作用 )
                ( Z0 ボゾン相互作用 )
                ( 電磁相互作用 )
                ( 電磁相互作用 )

                      <補足>式の解釈

                             式右側の注釈で示す項の内容を見ると、電磁相互作用および中性弱Zボゾン相互作用は、
               左巻き粒子にも右巻き粒子にも働くが、荷電弱Wボゾンは、右巻き粒子にのみ働くことが分かる。
                             このように、弱い力は、右左を区別する、すなわちパリティ変換(空間反転、鏡像変換)に対して
               対称性を示さない。言い換えれば、弱い力はパリティ対称性を破る。
                             ニュートリノは、Wボゾン(ウィークボゾン場)とは相互作用するが、光子(電磁場)とは相互作用
               をしないことも式から読み取れる。

クォークの質量項をみると、左巻きフェルミオンと右巻きフェルミオンの世代が混合している。すなわち湯川結合定数の行列が対角行列となっていない。 つまり、ラグランジアン密度のフェルミオン場は質量固有状態をあらわしていない。これらの場を質量固有状態のものに移す(クォークの固有の質量を得る)には、 湯川結合行列を対角化しなければならない。
今、u,c,tクォークの質量項に注目すると、y(u)ij v /√2 が質量 M(u)に相当するが、2つのユニタリー行列 U,V を用いて対角化できて、この対角化した行列を M(u)'=diag ( m(u)'ii)と置くと、 (上記のLfermion第1行第3・4項)は、
                

                                               
ここで、質量固有状態(u'L、d'L)を以下のように定義した。
                
                
これらのユニタリー行列を用いて、クォークの固有の質量が次のように得られる。(下左が上記のLfermion第1行第3・4項より u,c,tクオーク、下右上記のLfermion第2行第3・4項より d,s,bクオーク)
                
また、WボゾンとクォークカレントJμの相互作用項 の一部(上記のLfermion第4行第1項)を、質量固有状態の場で書くと、
                
ここに、
                

この VCKMカビボ・小林・益川行列という。

クォークは質量の固有状態のみ観測可能され、クォークとは質量の固有状態を意味するので、混乱のないように、ここで、「’」の有無を逆に書いて、質量の固有状態を(d,s,b)、フレーバーの固有状態(d',s',b')と書き改めると、両者はつぎの関係を満たす。
                
すなわち、フレーバーの固有状態(d',s',b')は、質量の固有状態(d,s,b)の線形結合で表されており、世代間の混合があることを意味する。

この表現を用いて、上の相互作用項を書き直すと、同一世代間の変化(d'→u、s'→c、b'→t)を表すカレントとなることが分かる。(d',s',b'のフレーバー固有状態は、(u,d'),(c,s'),(t,b')の対で反応する)
                
このように、弱い相互作用では世代間の転移が起こることを意味している。( VCKMの各要素は転移の確率を表しており、VCKM≠I であるとして、上式を説明すれば、 例えばj 世代の d'Lj(書き直し後の質量固有状態 dLj、フレーバ固有状態 d'に混じる )(2世代の s クォーク) が消滅し、i 世代の u'Li(書き直し後の質量固有状態 uLi )(例えば 1世代の u クォーク) が生成するものもあるといえる。すなわち 、2世代の下系列のストレンジクォークが1世代の上系列のアップクォークに、CKM行列要素の絶対値(今の例では|Vus2) に比例する割合で、転移する。

この世代間の転移は、下系列から上系列への転移に限ったものではなく、その逆もある。これは、上記のLfermion第4行第3項から、次式が得れれることからも分かる。このように、上系列のアップクォーク u が下系列のストレンジクォークへ転移する割合は、やはり|Vus2 に比例するといえる。 (何故なら|V'mn2=|V*nm2
                

                

カビボ・小林・益川行列 VCKMの具体的な表記法は4種類あるが、標準表記といわれるものの簡略表記であるウォルフェンシュタイン表記では、4つの実数 λ,A,ρ,η により、
                
と表される。上右の行列は、各要素(複素数)の絶対値を記している。理論的(世代間混合なしとすれば)には VCKM=I でなければならないが、実験から得られた値には、それからのずれが見られる。

ρ−iη (=ξe、δ:位相)の存在からCP対称性の破れが説明されるが、CP対称性の破れは、カビボ・小林・益川行列の自由度の検討により、世代数が3であれば起こることが示される。これを小林・益川理論というが、 この理論により、当時未発見であった、6種類のクォークが予言された。


                      <参考> CP対称性

                             C(Charge)対称性とは、荷電共役変換(電荷の反転)すなわち粒子・反粒子の反転のことであり、p(parity)対称性とは、カイラル
               変換(鏡像関係)すなわち座標反転のことである。この変換を同時に行っても対称性が保たれることをCP対称性があるという。
               強い相互作用と電磁相互作用ではCP対称性があるが、弱い相互作用では、CP対称性が破れている。
                             この事実を説明するのが小林・益川理論である。
               詳しい説明は省略するが、CKM行列が一般的に NxN ユニタリー行列であるとして、独立なパラメーターはN2、そのうち回転角ie世代
                             間の転移を表すパラメーターは N(N-1)/2、残りは位相変換のパラメーターとなる。今クォークが N 世代あるとすると、観測量を変
                             化させない位相変換として 2N-1 のパラメーターの自由度が存在する。従い残る自由度は N2-N(N-1)/2-(2N-1)=(N-1)(N-2)/2 となる。
               つまり、N=2 なら、位相変換のパラメーターは存在せずCP対称性が保たれる。しかし、N=3 なら、位相変換のパラメーターは1ケ
               存在(CKM行列に複素数の存在)し、CP対称性を破る。
       


ここには計算式を表示していないが、ニュートリノが質量を有することは右巻きのニュートリノがあることになり、クォーク場と同じ式が導けて、レプトンの弱い相互作用でも、世代間の転移起こることがわかる。 このように、レプトンについても、同様の議論ができて、牧・中川・坂田行列MNS が存在する。(観測可能な量は、質量固有状態の(e,μ,τ)と、フレーバ固有状態の (νe,νμτ)のみで、ニュートリノの質量固有状態(ν123)は観測できない。すなわちニュートリノとはフレーバー固有状態のことを意味する。)
                                 

標準理論ではニュートリノに質量はないとしている。質量がないとしているのでニュートリノは光速で移動するため、左巻きしかないとしている。
しかし、ニュートリノに質量があれば上に説明したように光速以下で移動するため右巻きψRがあることとなり、クォークの場合と同様に2重項が存在し、牧・中川・坂田行列に従い、時間的な世代間の転移すなわちニュートリノ振動 (電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ間の変化)があらわれることになる。

このことは、下図のように説明される。すなわち、質量固有状態のニュートリノはそれぞれ異なる振動数を持つ波として空間を伝搬するが、 ニュートリノのフレーバーは質量の固有状態の波の重ね合わせとなり、ニュートリノが空間を飛ぶ間に波の位相が変化し、フレーバーの 種類が変わる。このことをニュートリノ振動と言う。(スーパーカミオカンデでの観察は、μニュートリノとτニュートリノの振動である。 地球を通る間にμニュートリノがτニュートリノに変化してしまうため、地球の裏側からくるμニュートリノの数が少なく観測されるということである。)

                                








<補足説明(c) QCD理論/量子色力学理論>

QCD理論は、GMS理論に似た構造をもち、SU(3)のゲージ理論であるが、ヒッグス機構を含まない理論である。 ここではその内容の詳細には踏み込まないで、その波動関数の構造ならびにラグランジアン密度を紹介するに留める。


ψqi : 色荷i(i=1,2,3 ie Red,Green,Blue)とフレーバーq(q=1,2,3,4,5,6 ie u,d,c,s,t,b)を持つクォークを表わす自由場ディラックスピノール

            

gs : 強い結合定数
Gμ : グル―オン場(a=1,2,・・・,8)

            
            
            

                 この式では、ローマ字に関しても和をとります。丁寧に書くと、
            

ゲルマン行列λa(SU(3)生成子Ta=(1/2)λa) : tr([λabc)=4πfabc
            
            
構造定数fabc:a<b<cに対する値は以下の通り。それ以外は全て0(すべての添え字に関し反対称)
            
            
            


QCDでは、クォークの質量は、低エネルギーで強くなる相互作用によって、クォークと反クォークのペアが凝縮してカイラル対称性を破ることによって、獲得されるとする。 (QCDの一モデルである、南部-Jona-Lasinioモデルでは、真空においてフェルミオン凝縮を起こし、カイラル対称性を破ることによって、質量が獲得されるとする。)

質量の起源を論ずるにはフェルミオンの凝縮を考えなければならないが、クォーク・グル―オンの性質の解析には、上に記した質量を含む式をベースに 「格子ゲージ理論」という難解な数値計算を実行することにより行われる。







[W] 標準理論の解法/経路積分法・格子ゲージ理論

標準理論は数多くのパラメーターを含むため、実験によりそのパラメータを決定しなければならない。
しかし、自由場の運動方程式の解は得られるが、相互作用を含む運動方程式は一般的に解けない。そこで、経路積分と呼ばれる手法を 用いて、主として散乱断面積を計算し、実験による散乱断面積と比較して、パラメータを決定する。

この手法もまた大変複雑で面倒なものであるのでここでは割愛することとするが、その一部でも、以下のような主要なテーマを勉強する必要がある。

    <電弱統一理論>  経路積分法( 関連主要テーマ:正規積・時間順序積・ウィック定理・ファインマン規則・散乱行列・不変振幅・散乱断面積・崩壊幅・寿命etc)
    <QCD>     格子ゲージ理論(膨大な数値計算解法 : 時空を格子化し、格子点上の場の値の集合として場(関数)を定義)







==============================================


[戻る]


「国立科学博物館で学ぶ物理学」メニュー
 フーコー振り子  ジャイロホイール  トムソンリング  まぼろしの壁  回折  電子雲  月の軌道  HR図  霧箱・サイクロトロン  一般相対性理論概要  素粒子標準理論概要
yasuo kawanami inserted by FC2 system