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国立科学博物館で学ぶ物理学 <ジャイロホイール/コマ歳差>

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[T] ジャイロホイール

ジャイロホイールとは、下左図のように回転可能な椅子の上で、回転する車輪の軸を例えば水平方向から垂直方向へ時計回りに捻ると、椅子ごと全体が時計回りに回転するというものです。

車輪が回転台にいる人から見て外向きに回転しているとき、車輪の軸を時計回りに90度捻って止めると、回転台は時計回りに一定の速度で回転し続けます。 続けて軸を0度に戻すと、回転台はそこで停止します。また、90度以下で止めれば、90度のときより遅く回転し、90度以上180度までの間で止めると90度を超えた所で 回転は逆向きとなります。
はじめに、反時計回りに捻ると、時計回りに捻ったときとは逆回転の状態となります。

  その原理は、上右図のように考えると分かりやすいでしょう。車輪が角速度L(青太線)であるとき、車軸に図に示す方向のモーメントN(緑太線)を加えたとしましょう。このとき車輪周縁部における速度は、 角速度Lによる速度(青細線)と加えたモーメントNによる速度(緑細線)の合成速度(赤細線)となります。この合成速度が新たな角速度L’による車輪周縁部における速度と一致するようにLからL’に 移動することになります。逆に考えると、角速度Lが紙面内で回転するように力を加えるとは、紙面内でLに垂直な方向のモーメントNを加えることと言えます。

上の説明に沿って考えると、Lを時計回りに捻りたければ、絶えず、ベクトルがLに90度先行するようなモーメントNを加えればよいことになります。今ベクトルLは左方向から出発することを考えていますので ベクトルNは上向きから出発します。Lを90度以内で捻る限りNはいつも斜め上向きとなります。このNの反力としてのモーメントにより回転台が動きます。ベクトルNを上向き、右向き、手前向きに分けて 考えると、右向き・手前向きにモーメントは回転台の軸を軸に直角方向に倒そうとする力となりますが、軸はその方向には固定されているので倒れません。残る上向きのモーメントの反力としてのモーメントは 下向きですので回転台を時計回りに回転させることになります。Lの捻りを途中で止めると、それ以降はモーメントが働かないので一定の速度で回転を続けます。今述べた初期条件では90度以上捻ると、 加えるべきモーメントは斜め下向きとなるので有効な反力モーメントは上向きとなり回転は減速されます。そして180度まで捻れば停止します。

Lを反時計回りに捻ると、Lに90度先行するモーメントは斜め下向きとなるので、有効な反力モーメントは上向きの成分となり、上の説明とは逆の回転すなわち反時計回りに回転するようになります。

一方、車輪軸を垂直にした状態から出発すると、90度以上捻った場合の挙動が上の説明と異なリます。この場合90度を過ぎても、モーメントは上か下かで言うと90度までと同じであるの、有効反力モーメントは 回転台を加速し続け、180度まで捻れば上の説明の2倍となります。

こうした説明は下図のように整理出来ます。

以上が、ジャイロスコープの感覚的な説明となります。


少しでも物理法則をご存知であれば、次のような説明のほうが理解し易いかもしれません。ジャイロホイールの回転にはなにも力が働いていないので、角運動量Lは保存されます(常に大きさは一定)。従い 角運動量ベクトルLの微小変化量dLは、円運動の位置ベクトルrの微小変化量drがrと直角であるように、Lに直角です。剛体の回転の方程式は
     
ですから、モーメントNと角運動量ベクトルLの微小変化量dLは平行です。この2つのことから、Lに直角なモーメントNを加えれば、Nの方向へ 角運動量ベクトルLが動く、すなわちその角運動量ベクトルの方向を軸としてジャイロホイールが回転することになるのです。

理論解析結果

以下は、上の感覚的説明としたことの解析結果による説明図です。
図" 図"







<付録>コマの首振り運動(歳差運動)

皆さんのよく御存じのコマの首振り運動も、ジャイロホイールと同じ原理によります。理論解析は、以下に紹介するコマの歳差運動を参照してください。 その数値計算の一例を下図に示します。






[U] ジャイロホイール運動解析

(1) 関連する物理法則

角運動量をL、モーメントをN、角速度をωとすると、
     
     
ここに、I(Ixy,Iz)は慣性テンソルであり、
     
 Ixx,Iyy,Izzは慣性モーメント、Ixy,Iyx,Ixz等は相乗モーメントで、1例を示すと、密度をρとして、
     
     

(2) オイラーの運動方程式/剛体の回転運動方程式

慣性系O(x,y,z)に対し角速度ωで回転する剛体に固定した座標O'(ξ、η、ζ)を考えると、座標O'で表した角運動量L*(Lξ,Lη,Lζ), 角速度ω*ξηζ)を用い、
     
O'を剛体の重心に置き、座標軸を慣性主軸にとると、
     
従って、基本的な回転運動方程式は以下のようになる。これをオイラーの運動方程式という。
      (1)
     
     

(2) オイラー角

慣性系O(x,y,z)から剛体に固定した座標O'(ξ、η、ζ) 似変換するのに、回転に仕方には種々あるが、ここでは以下の手順による。
     第1ステップ : (x,y,z)をz軸のまわりに角度φだけ回転し、(x',y',z')とする
     第2ステップ : (x',y',z')をy'軸のまわりに角度θだけ回転し、(x'',y'',z'')とする
     第3ステップ : (x'',y'',z'')をz''軸のまわりに角度ψだけ回転し、(ξ,η,ζ')とする

このようにすると、第1〜第3ステップは、以下の行列で表される。
     
     
     
従い、r*(ξ,η,ζ)とr(x,y,z)の関係は
     
      または、
     
で表され、行列Tは
     
     
     
また、角速度ω*ξηζ)は、(x,y,z)座標でのz方向の角速度ベクトル(0,0,dφ/dt)t、 (x",y",z")座標でのy"方向の角速度ベクトル(0,dθ/dt,0)t、(ξ,η,ζ)座標でのζ方向の角速度ベクトル(0,0,dψ/dt)tそれぞれの(ξ成分、η成分、ζ成分)の和であるから、 単位行列をEとして、
       
の表記を用いて、 各成分を表すと、
      (2)
     
     
最後に、角運動量L*(Lξ,Lη,Lζ)とL(Lx,Ly,Lz)、モーメント N*(Nξ,Nη,Nζ)とN(Nx,Ny,Nz)の関係は、
       
     

(3) ジャイロホイールの運動方程式

オイラー角と角速度ωとの関係式(2)を微分して、
      (3)
     
     
これらをオイラーの運動方程式(1)に代入すると、モーメントN*が得られる。N*とNの関係式より、N= Tt N*であるからNが求まる。
具体的には、
     
     
     

      (3)
      (3)
      (3)

Nx、Ny、Nzはいずれも、θ、dθ/dt、d2θ/dt2、φ、dφ/dt、d2φ/dt2、ψ、dψ/dt、 d2ψ/dt2の関数であるが、θ、φ、ψが時間の関数として与えられている場合には直ちに求めることができる。
   

L(Lx,Ly,Lz)は、N(Nx、Ny、Nz)が求まっているから、dL/dt=Nの関係を用いて、数値計算によって解が得られる。
     

(4) ジャイロホイールの解

ジャイロホイールの解の一例を以下に示めそう。

慣性座標として,右手方向をx軸、身体から外側方向をy軸、頭上方向をz軸にとり、ジャイロホイールに固定された座標として、車輪軸をζ軸、車輪平面内にξ軸・η軸をとることとする。 初期状態は(x、y、z)と(ξ、η、ζ)が一致した状態、すなわち車輪軸を垂直とし、時計回りに車輪軸を回転する場合を考えよう。 車輪軸は、(x、z)面内で回転させるのであるから、φ=0、θ=θ(t)、ψ=ψ0(一定:これは車輪の回転速度)である。このような動きを与えるには、以下のように、 θを加速(t<t1)−定速(t1<t<t2)−減速(t2<t<t3)とすればよい。
           
     
     
     
但し、a:加速度、v0:目標回転速度、θt:目標回転角で、t1〜t3は、
     
     
     

椅子の回転は次のようにして解くことが出来る。床面に固定した座標を考え、頭上方向をzz軸にとると、椅子に働くモーメントNzzは、車輪に働くモーメントNzの 反力であるから、椅子に乗る物体全体のzz軸に関する慣性モーメントを Izz 、その角速度をΩzzすると、Izz (dΩzz/dt)=Nzzより、
       
 

この条件で計算した結果を図にまとめると次のようになる。車輪軸を水平から捻る場合も同様に解析でき、[T]で説明したことを裏付けている。

     <補足> Lに90度先行する(車輪軸定速捻り領域)」ことについて
                車輪軸の捻り速度が一定のときは、ω*=(dψ/dt)eζ(定ベクトル)ゆえ*=Iζ(dψ/dt)eζ(定ベクトル)である。
                従い、dL/dt=dL*/dt+ωL*=0となるから、L=K( 定ベクトル) i e L2=K2(一定)ゆえ、
                   
                すなわち、LとdLは直角である。一方、dL/dt=Nであるから、
                   
                すなわち、NとdLは平行である。従い、NLは直角となる。            

  
モーメントNと角運動量L
N はL に 90度先行する   
θ・N・L各量の時間変化
捻る角度を90度で止めると、Nz=0 となり、椅子は一定速度で回る。   
椅子の回転速度Ω
捻る角度により椅子の回転速度は異なり、180度では90度の2倍となる   
図" 変化 椅子速度













[V] コマの歳差運動解析

オイラーの方程式を折角学んだので、ジャイロホイールの解析からさらに進んで、軸対称剛体であるコマの運動解析についても説明しておこう。

(1) 自由歳差運動(外力モーメント=0の場合)

剛体の対称軸をζ軸にとると軸対称剛体の場合 Iξ=Iη=Aであるから、Iζ=Cとして、N=0の場合を 考えるから、[U](2)に示したオイラーの方程式(1)は、
     
     
     
この第3式から、初期値をωcとして、
     
また、第1・2式の両辺を微分して、ωζcを代入・整理すると、
     
     
これは簡単に積分できて、積分定数をそれぞれ a,α,b,βとすると、
     
     
但し、これらの積分定数は、以下の式を満足しなければならない。すなわち、ωξηを1階微分方程式第1・2式に代入して整理するとそれぞれ、
     
     
ところで、dL/dt=N=0すなわちLは一定であるから、L2=Lξ2+Lη2 +Lζ2=A2ωξ2+A2ωη2+C2ωζ2 =(一定)ある。これにωξηを代入して、
     
これらの3つの関係式より、a2=D=b2、すなわち a=±bゆえ、
     
最終的に、オイラーの方程式の解は、初期値で決まる値をαとして、以下のように表すことができる。
     
     
     

この運動は、慣性主軸座標(ξ,η,ζ)において、瞬間回転角速度ωが、ζ軸となす角Θ=tan-1(a/ωc)を一定に保ちつつζ軸の周りをdφ/dt=(C/A-1)ωζ で回転する。C>Aのときはξ軸からη軸の方向へ、C<Aのときはη軸からξ軸の方向へ回転する。



上に示した解は、慣性系(x,y,z)から見た運動となっていない。すなわち座標系(x,y,z)での運動式とする必要がある。
そこで、外力モーメントN=0、従いdL/dt=0すなわち角運動量Lが常に一定であることから、角運動量の方向にz軸を とることとしよう。

L(Lx,Ly,Lz)とL*(Lξ,Lη,Lζ)の関係 は[U](2)に示したように、
       
であるから、L(0,0,L)は、慣性主軸座標(Lξ , Lη , Lζ)では、次のように書ける。
       
これらを、[U](1)のL=I・ω、[U](2)のオイラーの方程式(1)式に代入して、
       
       
       
第1式×sinψ+第2式×cosψより、
       
従い、第2式×sinψ−第12式×cosψより、
       
この結果、第3式より、
       

これら3つの関係式を用いて、ζ軸すなわちr*(0,0,1)の座標系(x,y,z)でのrを求めると、r=Ttr* であるから、最終的な解の表現は以下のようになる。
       
       
       

外力モーメントのない軸対称剛体の運動は、座標系(x,y,z)において、慣性主軸であるζ軸がz軸となす角θを一定のθ0に 保ちつつ、z軸の周りを一定の角速度dφ/dt=L/Aで回転することが分かる。この運動を自由歳差と言う。








(2) コマの歳差運動(外力モーメント≠0の場合)

ここでは、外力モーメントが働く軸対称剛体の運動として、「コマ」の運動を考えよう。

「コマ」は、対称軸である心棒としてζ軸を持ち、固定点は心棒の一端にあるとする。その心棒の固定端から重心までの距離をhとして、重心に 鉛直下方に重力gが働くものとする。
座標(x,y,z)は、鉛直方向上向きにz軸(従いx,y軸は水平面)をとると、z軸からθ傾いたコマには、その質量をMとして、
       
の鉛直下方向きの外力モーメントが働く。

前節[U]でオイラー角を説明したときの座標系を考えると、このコマの運動は、座標(x,y,z)と一致していた慣性主軸座標(ξ,η,ζ) が座標(x",y",z")と重なった状態すなわちy"軸は水平でz"軸はz軸と角θをなす時の運動である。この状態への変換行列は=CBA ではなく、(BA)である。座標(x",y",z")での角運動量・モーメントを、L+(Lx",Ly",Lz")、 N+(Nx",Ny",Nz")と書くことにする。

外力モーメントNは、N+(0,N,0)であるから、
       
また、この状態から最終の(ξ,η,ζ)への変換行列はCゆえ、L+(Lx",Ly",Lz")は、 L*(Lξ,Lη,Lζ)に逆行列Ctを適用してL+=Ct L*となるので、[U](1)のL=I・ωを用いて、
       
       
       
これらの式に、[U](2)のオイラーの方程式(2)式を代入すると、ここでもIξ=Iη=A、Iζ=Cとして、
       

ところで、座標(x",y",z")での角速度ベクトルΩ+x"y"z")は、座標(x,y,z)で角速度ベクトルΩ1(0,0,dφ/dt)、座標(x',y',z')で角速度ベクトルΩ2(0,dθ/dt,0)の 合成ベクトルであるから、
       
であるから、
       
座標(x",y",z")は慣性系でないため、
       
であるので、
       
       
       
       
       
       
       
基本方程式dL/dt=Nにおいて、N(Nx,Ny,Nz)=N+(Nx",Ny",Nz") であるから、最終的なコマの運動方程式は、次のようになる。
       
       
       

最終的な運動方程式が得られたので、あとはこれを解くのみである。
第3式より直ちに、積分定数をωζ0として、
       
これを第1式に代入すると、
       
       
{ }内は、次のような関数の微分
       
       
であるから、
       
積分すると、積分定数をC1として、
       
従い、
       
式(*)(**)を最終的なコマの運動方程式の第2式
       
に代入すると、θのみの方程式が得れれる。(sinθ=0はコマが垂直に立ち、外力モーメントがなく、そのままの状態で回転するだけなので、ここでは考慮しない。)


(*)(**)(***)の連立方程式は解析的には解けないので数値計算で解くことになります。

軸回りに(dψ/dt)0で回転するコマを、軸の垂直線からの傾きθ0で接地させる場合、軸先端の水平方向の初期位置φ0および回転初速度(dφ/dt)0を 与えれば、積分定数ωζ0およびC1が決定するので、例えば、(**)および(***)を差分化して解けば、θおよびφが得られます。

座標(x,y,z)でのコマの運動状態は、コマの心棒の先端の動きをみれば分かる。 コマの心棒の長さをLtopとすると、ζ軸の先端は(ξ,η,ζ)=(0,0,Ltop)であるから、
       
       
       

計算結果の一例を以下に示します。純粋な歳差運動である円形軌跡以外に、円形軌跡に沿って波打つ運動(章動)を見ることができましょう。 波打ちも滑らかな波状であったり、螺旋状の波打ちであったり、初期条件により様々に変化します。


上図3条件のうち、章動の小さいものは、軸先端の水平方向の回転初速度(dφ/dt)0が、その左右の条件の中間にあり、結果としてθがほぼ一定(ie dθ/dtがほぼ0)となることを示しています。



地球の自転軸の歳差運動・白道面(月の軌道面)の法線の歳差運動も、コマの歳差運動と同じように、回転する軸対称剛体に他の天体からの 力による外力モーメントが働く、またはそのように近似することにより、似通った歳差・章動が見られることが理解できます。



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