「国立科学博物館で学ぶ物理学」メニュー
 フーコー振り子  ジャイロホイール  トムソンリング  まぼろしの壁  回折  電子雲  月の軌道  HR図  霧箱・サイクロトロン  一般相対性理論概要  素粒子標準理論概要

国立科学博物館で学ぶ物理学 <まぼろしの壁/偏光板>

[概説] まぼろしの壁 セロテープステンドグラス ステンドグラス色表現 偏光板 複屈折 [理論解析] 物理法則 方程式 [色彩工学技法]  波長と色表現法 国立科学博物館で学ぶ物理学 ホーム

[ホームページへ戻る]

[T] まぼろしの壁

(1)まぼろしの壁

まぼろしの壁とは、左図のようなガラス面で囲まれたトンネルには実際に壁がないにも拘わらず、壁があるように見える展示物です。

仕掛けは簡単で、右図に示すように、左側のガラス面の手前および奥手には、偏光板を透過軸がを同じ方向例えば横になるように貼ってあります。 右側のガラス面の手前および奥手には、偏光板を透過軸がを同じ方向例えば縦になるように貼ってあります。

偏光板とは、さまざまな方向に振動する光がこれを通過すると、透過軸方向のみの振動をする平面波とするもののことです。

1枚の偏光板を透過した後、同じ方向の透過軸を持つ2枚目の偏光板に当たると、2枚目の偏光板はそのまま光を透過させます。この場合、人は光を感じますので白く見えます。

ところが、直角方向の透過軸を持つ2枚目の偏光板に当たると、2枚目の偏光板は入射してきた光の振動面と透過軸が直角ですので光を遮断します。 この場合、人は光を感じられませんので黒く見えます。

これが「まぼろしの壁」が見える理由です。右図のような構成にすると左右どちら側からも壁が見えます。


(2)セロテープステンドグラス

2枚の偏光板を用いるともっと面白いことが出来ます。偏光板の間に無色透明のセロテープをおくと、その置き方(透過軸との角度)やテープの枚数により テープが様々な色に見えます。これを用いるとステンドグラスを作ることが出来ます。

左図がセロテープによるステンドグラスの1例です。左と右では、2枚の偏光板の透過軸が平行であるか直角であるかの違いです。

右図は、テープの長手方向が、2枚の偏光板の透過軸と45度になるようにテープを配置したときの実際の干渉色を示しています。左上より右下へテープの枚数が1から6枚となっています。 テープの厚みによって干渉色が変化します。右図には6色1組として、2組ありますが、左は2枚の偏光板の透過軸を平行にしたときの干渉色の組で、右は2枚の偏光板の透過軸を直角 にしたときの干渉色の組で、それらは互いに補色の関係にあります。
テープの幅・枚数・角度を工夫して切り絵を作ると、左のようなステンドグラスが出来ます。



どうしてこのような綺麗な干渉色が出来るのかについて、以下に説明しましょう。ここでの説明は、セロテープの長手方向が、偏光板の透過軸と45度をなす場合を取り上げましょう。

偏光板で直線偏光(電場が1方向のみに振動する光)となった光が、セロテープに入射して以降のテープ内での光の電場の状態(ある瞬間の状態)を示したものが左下図です。 光は、セロテープに入ると電場の振動方向が互いに直角の2つの光に分かれます。一方は、セロテープの長手方向(これを光学軸といいます)に振動し、他方はセロテープの幅方 向に振動します。前者を正常光(緑色)、後者を異常光(赤紫色)といい、セロテープ内を進む速さが異なります。別の見方をすると、波長が異なり、更に別の見方をすると、屈折率が異なります。 この2つの光の電場を合成すると、螺旋状の波(青色)となります。矢印は、その位置における、ある瞬間の電場ベクトルの方向を示しています。

右上図は、左上の波について、特定の場所における電場ベクトルの時間的変化を示しています。セロテープに入射した点では、電場ベクトルの先端の時間的変化は直線です。 少し出側に寄った位置では、楕円となります。更に進むと、円になります。こうした状態を、直線偏光・楕円偏光・円偏光といいます。右上図の上部(入射光の方向すなわち偏 光子の透過軸方向を上下方向にとっています)は、この変化を波長毎(色毎)に示しています。どの波長でも、直線→楕円→円→楕円→直線→楕円・・・・・と変化していきますが、 波長(色)が違うとその変化サイクルが異なります。セロテープを出た後の光は、セロテープの出口の偏光状態そのままで進行するようになります。

このような偏光状態に光がもう1枚の偏光板(検光子という)にくると、その透過軸方向の成分のみが透過します。例えば偏光子と検光子が平行の場合、図示した例で言うと、赤は 横長の楕円偏光で検光子に来ますので、透過した光の振幅は元の半分程度となります。一方、緑・青は縦長の楕円偏光となっていますから、元のままではないが、それに近い振幅 となります。青・緑が強く、赤が弱くなるので、大胆に言うと、水色(本来なら赤=0の場合だが)となります。偏光子と検光子が直角の場合は、赤が比較的強く、青・緑が弱くなるので、 これも大胆に言うと、赤色となり、水色の補色となります。(干渉色の説明は、例えば赤が直線偏光で出てくる板厚のところの状態で今の説明を考えればより明確でしょう)

以上が、セロテープによる干渉色の説明ですが、位相差δを示して説明されることもあるので、参考までに、紹介しておきましょう。
         
λは波長、、no・neは正常光・異常光の屈折率、hはセロテープの厚みであって、位相差δ=2πすなわちh=λ/(no-ne) であれば、このλの光は強い光となるが、別の波長の光はこの式を満足しないので弱い光となるため、干渉色が出ると説明します。


(3)セロテープステンドグラス理論計算結果 <色の表現方法は、色彩工学技法/波長と色表現法を参照してください>


セロテープは厚みhは45μ程度のようですが、今h=42μ、no-ne=0.005として、セロテープの長手方向を偏光子の透過軸に対し45度に配置した場合、 検光子の透過軸を回転させたときの干渉色の変化を計算した結果を以下に示します。図には、検光子を通過後のスペクトルをも示していますので干渉色も感覚的に理解できると思います。


[U] 偏光板

極く一般的な偏光板としては、PVA(ポリビニルアルコール)のフィルムをKI(沃素カリ)の液に浸した後、1方向に延伸したもの(これをポラロイドフィルムという)が有名です。
分子構造(右図:ヨウ素学会ホームページより)的には、延伸方向に配列したPVA分子に沿って沃素イオンが直線的に配列しています。入射する光の電場の振動方向が、この直線方向と一致する場合、沃素イオンは その方向の電流に担い手となります。電場の方向と電流の方向が一致する場合は、光のエネルギーは電流によるジュール熱として吸収されてしまうため、光は透過することが 出来ません。入射する光の電場の振動方向が、沃素イオン配列方向と直角の場合は、電場の方向には電流が流れることが出来ないため、電流によるジュール熱損失は発生 しません。そのため光はエネルギーを失うことなく透過することが出来ます。

前節[T]で述べた「透過軸」とは、実は、電場の振動方向と直角の方向、すなわち磁場の振動方向のことであります。


[V] 複屈折

複屈折として最も有名なものは、方解石の複屈折(右図:「結晶美術館」より)です。紙面の上に方解石を置くと、紙面に書かれた文字が二重に見えるので、複屈折と言います。
方解石は炭酸カルシウムの結晶ですが、この結晶は対称軸を1本のみ持ちます。この対称軸(光学ではこれを光学軸と呼びます)方向に入射した光はそのまま進行しますので2重に 文字が見えるわけではありません。 方解石のへき解面は対称軸とは一致していないので、単純に方解石を紙面に置くことは、対称軸から傾いた方向に光が入射することを意味します。このように、対称軸から傾いた入射 光は、スネルの法則で決まる方向に進行する光(これを正常光といいます)と方向がやや違う方向に進行する光(これを異常光といいます)との2つの光に分かれます。その結果、文字が2重に見える ことになります。

右下の図は、方解石の複屈折の計算結果です。

正常光と異常光の物質内での速度は異なります。別の言い方をすると2つの光では屈折率が異なります。
少しややこしくなりますが、上で言う光の進行方向とは、光のエネルギーが伝播される方向すなわち明るく感じられる方向であり、スネルの法則でいう方向とは、波面の進行方向のことです。 波面の進行方向は、2つの光はいずれも同じになります。

セロテープはセルロース繊維から作られますが、セルロース(βグルコースの重合体)は、直線的な分子配列を持ち、その方向が対称軸(光学軸)となります。従い、セルロースは複屈折 材料と言えます。しかし、一般には透明である厚みはそんなに大きくはなく、屈折率差も方解石のそれほどではないため、複屈折材とは言え、表面に対し傾いた入射角の場合でも 文字のずれは感じられません。


[W] 理論計算

(1) 関連する物理法則<Maxwell方程式詳細はこちら>

(a)Maxwell方程式

         
         
これから導かれる電磁波の式
         
         

(b)絶縁体/誘電率テンソル

ここでは比誘電率をテンソル ε と表し、誘電率は形式的に ε・ε0として表すこととする。このとき、DEの関係は、
         

比誘電率テンソルは一般的には、下左に示すように9ヶの要素を持つ(但し対称行列である)が、適当な座標変換をすると下右に示すように対角要素のみを有するようにすることが出来る。 等方性物質では ε123 となり、1軸結晶では、いずれか2つが等しく、例えば ε12 となる。
                  

(2) 複屈折

(a)絶縁体内での電磁場(電荷ρ=0 ・電流密度j=0の場合)

ρ=0,j=0の場合、電磁波(光)の電場の式がE=E0exp{-i(ωt-kr}であるから、u=-i(ωt-kr)として、 k(kx,ky,kz)、r(x,y,z)とおくと、
         
同様にして、(rot)y、(rot)を求めてまとめると、
         
また、電磁波の磁場の式H=H0exp{-i(ωt-kr)}=H0exp{u}から、
         
この2つの式を、Maxwell方程式rotE=-μ0δH/δt に代入して、
         
これを積分すると、積分定数=0として、
         
同様にして、
         

この2式が同時に成立するには、両式からHを消去して、
         
ベクトル積の公式a×(b×b)=(bc)a-(ab)cを用いて、
         
ところが、k×H=-ωεε0Eであったから、整理すると、
         
c20μ0を用いると、電場と磁場の満足すべき式として以下の固有方程式を得る。
         
         

次に、この固有方程式を、ベクトル表現の屈折率を用いて表そう。物質中の高速c'、屈折率をnとすると、n=c/c' 、また波長を λ' とすると振動数はどこでもνであるから、k=2π/λ'、c'=λ'、ω=2πνの関係があるから、
         
と書けるので、電場ぼ方程式および固有方程式は、
         
         
(nE)nは、n=(nx,ny,nz)<但し、n2=nx2 +ny2+nz2> として、行列で書くと、
         
と書き直すことができるので、単位行列 を用いて、最終的に固有方程式(行列表現)は、
         

(b)1軸結晶での電磁場

これからは、1軸結晶について考えよう。1軸結晶とは、1つの回転対称軸を有し、その軸が主誘電軸の1つであり、他の主誘電率2つが同じになるものを言う。
回転対称軸である光学軸方向をz軸とし、光は、x 軸方向(z軸に垂直であるが、他の2つの主誘電軸に合致していない)に進むものとしよう。このようにすると、 誘電率テンソルの対角成分のうち、2つの対角成分は同じで、εxx、εxx、εzz、非対角成分はεxyのみが残るから、比誘電率テンソルεは、
         
光がx 軸方向に進むのであるから、波数ベクトルkはx方向成分のみ有し(kx,0,0)であるから、 屈折率ベクトルnもx方向成分となり(nx,0,0)となる。従い、テンソルは対角行列N=diag(n2,0,0)となるので、固有方程式は、
         
Eが自明でない解を持つためには、行列=0でなければならないから、そこで得られるn2についての2次方程式を解いて、
         
n1を固有方程式に代入すると、固有値n1に対する固有ベクトルはs1(1,-εxxxy,0)となるので、E1が得られる。 また、固有値n2に対する固有ベクトルはs2(0,0,1)であるから、E2が得られて、以下のようになる。
         
         
意味のある電場はそれぞれの実数部であるから、最終的な2つの電場は、
         
         

このように、1軸結晶の光学軸に垂直に進行する波E1E2は、eiej=0を考慮すれば、 E1E2=0となるから、直交する直線偏光となる。直線偏光E1(x,y) 面で振動し、直線偏光E2z方向の振動となる。前者は異常光線、後者は常光線と呼ばれる。
1軸結晶でも、更に特別な場合として、x軸、y軸が主誘電率軸方向と一致している場合、すなわちεxy=0の場合は、 E1//e2(平行)となり、E1e2方向の振動となる。

常光線は x 方向に平行に進むが、異常光線はx 軸方向からそれた方向に進み、2本の光線となることから複屈折 と呼ばれる。このことを以下に示そう。 上記(2)(a)で示したように、k×E=ωμ0Hであったから、今考えている場合k=kxe1であることを考慮すると、 H=kx/(ωμ0)e1×Eとなる。これをポインティングベクトルの公式S=E×Hに代入すると、
         
ベクトル積の公式a×(b×c)=(ac)b-(ab)cを用いて、
         
異常光線はE1=A'(εxye1xxe2)=E1xe1+E1ye2であったから、
         
となり、異常光線は、(e1,e2)面内でe1軸から、
         
だけ傾いた方向へ光線が進むことになる。
1軸結晶でも、更に特別な場合として、x軸、y軸が主誘電率軸方向と一致している場合、すなわちεxy=0の場合は、θ=0となり複屈折を起こさない

一方、常光線はE2=B'εzze3=E2ze3であったから、同様にして、
         
すなわち、常光線は波数ベクトルの方向と同じ方向に進むことになる。

(3)入射光と絶縁体内屈折光/スネルの法則

ここまでは、絶縁体内の電磁場を示したに過ぎない。そこで、入射光Einがx軸(e1)方向に入射するとする。且つ入射光は直線偏光で、偏光面は z軸(e3)とβをなすものとする。このときの屈折光すなわち絶縁体内の光Eoutがどうなるかを考えよう。

波数ベクトル(波面法線、屈折率ベクトル)はスネルの法則sinθ1/sinθ2=n2/n1に従い、空気(または真空)から垂直入射する場合、 絶縁体内での波数ベクトルも境界面に垂直に進行する。すなわち、空気中でx方向に入射した光は、絶縁体内でもx方向に進むので、双方の光はx方向に進む波として表される。
従い、入射光Einとz軸(e3)とのなす角をβとすると、
         
         
一方、絶縁体内では、E=E1+E1は、
         
境界面をx=0とし、(e1,e2,e3)各成分を比較すること(一般論で言えば、境界面での連続性より、接線方向の電場は等しくなければならない」と言うことと同じ)により、
         (e2方向)
         (e3方向)
これから係数A,Bが求まり、E1E2は、
         
         
これから、出口x=hと置くと、出射光Eout=Eout+Eoutが求まる。

以下では、光が境界面に垂直に入射し複屈折のない場合、すなわちεxy=0の場合を考えよう。この場合、E1E2は、
         
         

絶縁体内の任意の点xでの電場を調べてみよう。上2式の物理的意味ある実数部は、次のように変形される。k1=ωn1/c,k2=ωn2/cとして、
         
         
この2式より、t を消去すると、sin2(ωt)+cos2(ωt)=1であるから、sin{(k1k1)x}≠0のとき、
         
座標軸(E1,E2)をE2方向(e3)からE1方向(e2)へα回転した座標(E1',E2')を考えて、
         
         
上の2次式に代入すると、次式のように楕円となることが分かる。
         
αが次式を満足するときは x2/a2+y2/b2=1 となり、見慣れた楕円の式となる。この楕円の長軸は、次式で与えられるe3 からの角αの傾きをもつ軸となる。
         
sin{(k1-k1)x}=0のときは、α=±βで合成電場は直線偏光となる。それ以外では、αの範囲は (-β<α<β)で、合成電場は楕円偏光となる。更に、cos{(k1-k1)x}=0のときは、 α=0で、合成電場は円偏光となる。 光の進行方向 x につれ、合成電場は直線→楕円→円→楕円→直線偏光を繰り返すことになる
また特に入射光が β=45° で入射する場合は、α=45°一定で楕円の長軸は入射光の振動方向と一致する。




(4)出射光と絶縁体内屈折光/スネルの法則

絶縁体内から出る光は、入射するときと同様の解析を行えば得られる。出口の境界面は入口の境界面と平行で垂直ある場合、出口の境界面は光の進行方向と垂直であるので、出射光Eout は、出口での合成電場の式そのままに境界面に垂直に進行する。出口での電場Eは、x=h(絶縁体厚み)と置いて、
         
         
         
出口以後での電場Eoutは、E1E2それぞれについて、出口境界面で これまでと同様の解析を行うと、出側すなわち空気は等方性(誘電率ε0のみで比誘電率テンソルは単位行列)ゆえ、固有値n2=1で、2つの固有ベクトルe2e3を持つから、
         
         
         
ところが、出口境界面(x=0)で電場の接線方向は等しくなければならない(E1out=E1, E2out=E2)から、B=0,A'=0,A=E0sinβexp{i n1h/c}、 B'=E0cosβexp{i n2h/c}で なければならない。従い、
         
         

今、n=(n1+n2)/2+(n1-n2)/2のように工夫をし、位相差δを導入すると、
         
このようにすると、 となるので、和が容易になり、絶縁体内の電場Eは、入口を原点として、
         

出側での電場Eoutは、出口を原点として、
         

(5) 光の強度と干渉

光の強度 I は、伝播する電磁波のエネルギー密度(ポインティングベクトル)Sの時間平均で表される。
ポインティングベクトルSは、
         
であったから、時間平均を<>で表すと、
         
今、Eを複素数表現でAexp{-iωt}とすると、物理的意味を持つEは複素数表現の実数部であるから、
         
従い、
         
指数部分の時間平均は、t=-T〜Tに対し、
         
であるから、E2の時間平均をとると、
         

次に、2つの単色光E1,E1があって、その2つが重なってできる光Eの強度を考えよう。上と同様に、
         
         
         
とすると、
         
         
ここで、E1E1は、
         
その時間平均は、
         
最終的に、2つの単色光の強度 I は、次式で与えられる。
         
         

電場方向が同じ方向eを持つ2つの単色光E1,E2について考えよう。
位相差を持たない場合は、A=E1e,B=E2eであるから、
         
位相差δを有する場合は、A=E1e,B=E2exp{i δ}eとして、
         


[V] セロテープステンドグラスの解析

さて、いよいよ本題のセロテープステンドグラスの解析を行うことにしよう。(セロテープでは、表面に垂直方向・幅方向・長手方向が主誘電率軸であり、長手方向が光学軸である)

セロテープの光学軸D’(テープ長手方向:e3軸)に垂直、すなわち境界面(テープ表面)に垂直に入射(e3軸)する光線を考え、右図のような 透過軸配置の偏光子・検光子でセロテープを挟んだ場合を考える。

入射自然光は、偏光子でP方向の直線偏光となるが、テープに入ると、入射光は境界面(テープ表面)に垂直であるから、スネルの法則より、屈折光の波数ベクトル(波面法線方向)もやはり境界面に垂直、 すなわちe1軸となる。セロテープの誘電率は冒頭に示したとおりであるので、上記(2)(b)で示した説明がそのまま成り立ち、互いに直交する振動面(e2軸 およびe3軸)を有する2つの光に分かれて進み、且つ複屈折を起こさないので2つの光線は共に境界面に垂直に進む(光路は同じ)。 テープを出るときも、2つの光は、波数ベクトルも光線も出側の境界面に垂直であるから、そのまま境界面に垂直を保つ。違うのは、テープ内で形成された位相差であって、これはテープを出た後も保持されたまま 検光子Aに入射し、透過軸Aの方向の成分のみ透過するので、光の干渉が起こる。

セロテープ内の2つの光(e2軸方向の直線偏光とe3軸方向の直線偏光)の電場の合成ベクトルは、(e2,e3)面 内にあり、ある瞬間には右図のQ方向の楕円偏光E=Eoutとなる。D’とOPのなす角をγ、D'とOAのなす角をβ、OPとOAのなす角をχとし、Eの成分である2つの直線偏光 (e2成分およびe3成分)を透過軸方向(eA軸)とその直角方向(eB軸)に分解すると、 透過軸方向の2つの成分AおよびBは、η=ωt-nh/c-x/c と置いて、
         
         
2つの単色光は同じ方向eAの電場であり、且つ位相差δを有するから、[W](5)で説明したように、その合成電場強度 <E2> は、
         
のようにあらわされるから、この式に上の2つの式に表されたEA,EAを代入して整理すると、干渉後の強度は、
         
三角関数の公式を駆使して、整理すると、
         
ここに、位相差δは、テープの厚みをh、波長をλ 、D'・D"方向に振動する光の屈折率をn2,n1とすると、
         
テープ内の2つの電場E1、E2および合成電場Eは、[W](2)参照のこと。

偏光子と検光子を平行に配置した場合、その角度χ=β-γ=0 ie β=γ であるから、
         

             セロテープ長手方向(光学軸)を偏光子透過軸とβ=45°としたときが最も波長(位相差δ)の影響が強く出る、すなわち干渉色が強く現れる。
       セロテープ長手方向(光学軸)を偏光子透過軸と同じ(β=0°)または直角(β=90°)とするとどの波長(位相差δ)も影響されず、白色となる。
偏光子と検光子を直角に配置した場合、その角度χ=β-γ=90° ie γ=β-90°であるから、
         
             セロテープ長手方向(光学軸)を偏光子透過軸とβ=45°としたときが最も波長(位相差δ)の影響が強く出る、すなわち干渉色が強く現れる。
       セロテープ長手方向(光学軸)を偏光子透過軸と同じ(β=0°)または直角(β=90°)とするとどの波長(位相差δ)も影響されず、黒色となる。

この強度<E2>と波長λ(位相差δ)の関係を用い、各波長λ に対するスペクトルを求め、色彩光学技法を駆使すれば、[T]で紹介した図が得られる。




(a)偏光子/検光子交差角の影響(偏光子/光学軸45°の場合)<テープ枚数>上から1→6枚

(b)偏光子/光学軸交差角の影響(偏光子/検光子:90°の場合)<テープ枚数>上から1→6枚

(c)偏光子/光学軸交差角の影響(偏光子/検光子:0°の場合)<テープ枚数>上から1→6枚

(d)干渉色チャート<テープ枚数>

縦軸は厚みhを、横軸は光路差R=h(n1-n2)で、干渉色は光路差のみで決まる。図中赤線はR=h(n1-n2) の直線を示し、特定の材料の干渉色はこの線上にあり厚みに応じ右下へ移行する(図中丸印は、セロテープの枚数の位置に対応する)。
この図から分かるように、厚みが大きくなるにつれ、干渉色の明度は下がり、灰色気味の色となる。

[トップへ戻る]

「国立科学博物館で学ぶ物理学」メニュー
 フーコー振り子  ジャイロホイール  トムソンリング  まぼろしの壁  回折  電子雲  月の軌道  HR図  霧箱・サイクロトロン  一般相対性理論概要  素粒子標準理論概要
yasuo kawanami inserted by FC2 system