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国立科学博物館で学ぶ物理学 <一般相対性理論/ブラックホール・宇宙年齢>

[概説] キャベンディッシュねじりばかり HR図 水星近日点移動 光の湾曲・ブラックホール 重力レンズ 宇宙背景放射 フリードマン方程式 [理論解析] 水星近日点移動 光の湾曲 重力レンズ 重力波 シュワルツシルト解 ウォーカー計量 国立科学博物館で学ぶ物理学 ホーム

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[0] キャベンディッシュのねじりばかり(万有引力定数)

地球や太陽の重さは、教科書にも書かれていますよね! 計りもないのに、どうして天体の重量が分かるのでしょうか?


左図に示す科学博物館の展示物は、キャベンディッシュが、地球の密度(すなわち重さ、本質的には万有引力定数)をはかる目的で使用した装置
(右図)を用い、2つの大小の鉛玉がある間隔近づく時間がどれほど長くかかるか(この展示物では約5分)、言い換えれば重力が如何に小さな
値であるかを体験させようとするものです。
    余談ですが、測定の目的はやはり万有引力定数を
    求めることにあったが、論文が広く読まれるため
    には魅力的なタイトルとする必要があるので、タ
    イトルを「地球の重さを計る」としたとも言われ
    ます。個人的にはこちらであったと思います。

キャベンディッシュは、時間を計ったのではなく、鉛玉を吊るす線の捻じれと釣り合う力から、万有引力定数(重力定数)G を現在知られている値と1%程度しか違わない 精度で G=6.74x10-20Km3/Kg/s2 を得ました。


この値と、地表で簡単に測定できる重力加速度gと地球の半径Rを 用いて、基本的なニュートンの運動方程式(mg = F = GMm/R2)に代入して計算すると、次のような値(現在知られている値との誤差2%程度)が得られます。
         
元の論文では、次に示すケプラーの法則を使って太陽の質量を求めた方法と同じ方法を用い、月の運動(T,a)から地球の重さを得たようです。

太陽の重さは、ケプラーの法則を表すニュートンの運動方程式(<旧暦/月の運行軌道>「ケプラーの法則」参照)を使えば、 ここでもGを用い、地球が太陽を回る周期 T と長半径 a から、容易に求めること ができます。
         

このように、天体(宇宙)を理解するには、重力定数の値は重要な物理定数です。更には、重力定数の値だけではなく、重力の本質を理解することが必須 となっています。

重力とは何かを突き詰めていけば、これから説明するブラックホール・ダークマター・ダークエネルギーと称される宇宙論の最先端に 突き当たります。




[T] ブラックホール・暗黒物質(ダークマター)・暗黒エネルギー(ダークエネルギー)

国立科学博物館の宇宙コーナーには、当然のことながら星に関連する多数の展示物がありますが、宇宙を理解するのに今や不可欠とされる ブラックホール・ダークマター・ダークエネルギーなどの展示物はありません。それは私たちが現在持っている観測手段では直接観測できない からです。どうして目に見えないものの存在が分かるのかは、アインシュタインが提起した一般相対性理論 を理解しなければなりません。(その詳細に興味ある方は<一般相対性理論基本>を見てください。) もっとも科学である限り、純然たる理論だけでは不十分でその傍証となる観測事実がなければなりません。そのことは後で述べる として、それらが重要とされる意味を考えてみましょう。

(a)HR図(ヘルツシュプルング・ラッセル図)とブラックホール

国立科学博物館の展示には、左図のような大型ディスプレイがあります。この図をヘルツシュプルング・ラッセル図(略してHR図)と言います。

この図の横軸は星の光のスペクトル型を表していますが、 それらは星の表面温度と対応しているので図中上部に横軸として星の表面温度が示されています(ただし間隔は適当)。すなわち右側が 低温で左側が高温となります。また縦軸は星の絶対等級をあらわしており、上側が明るい(見た目の明るさとは異なります)すなわち 星全体の放射エネルギーが大きいことを意味します。下側は絶対等級で暗い星ということになります。

星の色は、表面温度が低い(右側)ほど赤っぽくなり、温度が高く(左側)なるにつれ、黄色・白・青のように変化します。 星の大きさは、右上にある星が大きく、左下にある星が小さいのですが、その大きさは適当に描いてあります。

図中央には太陽があります。左上から右下への線上に多くの星が並んでいますが、これらを主系列星と言 います。星の一生の大半は主系列星の状態にあり、終末近くになると、右上に示された赤色巨星・赤色超巨星を経てその一生を終えます。



上の図では、横軸・縦軸の大きさが良くわかりませんので、科学博物館の説明文にある図を下左図にもう一度紹介しています。
上の図でも下左図でも星の大きさは正確に描けていないので、もう少し正確に示すために、下右図を用意しました。

下右図の右下がりの線は同じ星の大きさを表します。破線は太陽の何倍に当たるかを示しています。例えばベテルギウスの大きさは図では 太陽の数百倍ということになります。ただ、ベテルギウスは脈動変光星にため正確に表しにくいのですが、或る資料によれば太陽の1000倍近い (木星軌道まで広がっている)とも言われています。また、下右図には、理論計算により描かれた星の一生(進化の過程)をも示しましたが、 このことをもう少し説明しましょう。

HR図 HR図/説明図

主系列星は、水素からなる原始星がその中心部で核融合反応によりHeを生成し熱を発生し輝いている星です。 理論計算によると、どの質量の星であっても図中に示すように同じジグザグ経路(7Msunのそれが分かり易い)を経て進化します。
最初の屈折点が、中心部の水素が燃え尽きる点で、主系列星である状態はここで終わります。中心部の熱源がなくなるので星は収縮し、 その収縮による重力エネルギーにより中心のHe核の外層部のHが着火(2番目の屈折点)し、次第にHe核が成長すると同時に外層が膨張(右側へ)していきます。 外層部が対流を始めると、表面温度はあまり変化せずに明るくなり膨張(右上への立ち上がり)が進みます。ある程度膨張するとそれとともに成長したHe核 が収縮を始め星全体が収縮(左下へ)し、最後の屈折点に進みます。この点では、重力エネルギーでHe核も十分高温となり安定的に燃焼しC,Oが生成されます。

星の運命の違いはここからで、太陽質量程度の星(図中 1Msun)では、C,O核は、質量が小さく重力エネルギーが 得られないため、それ以上のNe,Mg等への核融合反を起こすほど高温にもならず、重力も支えられず収縮を起こします。その周りではHの燃焼が進み、 やがて星全体は膨張して、外層部は恒星風という形で飛び去り惑星状星雲となります(最終点)。中心部は今説明したように 収縮し、C,Oからなる白色矮星(重さは太陽質量程度なら、大きさは地球程度)として残ることになります。 HR図左下に小さく描かれているシリウスBがそれです。温度は高いが小さいので暗くしか見えません。

一方、太陽質量の8倍以上の星では、大きな質量のため重力エネルギーも大きくより高温となるので核融合反応が各層でどんどん進み、中心部では鉄の生成まで進行します (ただ鉄が最も安定なので核融合反応はここで終わります)。この鉄の核は鉄の光分解により中性子の核に変化しますが、その際鉄が爆縮を起こし衝撃波 が発生します。この反動で外周部は一気に吹き飛ばされ、超新星爆発を起こします。中心に残された中性子核は、自己崩壊するほど質量がないので 潰れずに中性子星(太陽質量の2倍程度なら大きさが10−20km程度)として残ります。(注:質量が小さい側では 違う機構で爆発するといわれています)

太陽質量の20倍以上(注:20〜30倍と諸説あり)の星でも、8倍以上の星と同じ過程を経ますが、最後の残った中性子核の質量が更に大きい ので、まさに1点に自己崩壊してしまいます。こうして自己崩壊した星の周りのある半径(これをシュワルツシルト半径と言います)内から発せられる光は外部に出られず、またその近くをかすめる 光や物質はこの半径内に吸い込まれてしまうというのです。この半径の内部のことをブラックホール(大きさは質量によりますが数百Km程度とも言われます) といいます。

ブラックホールは、光も何も発しないので観測できず、一般相対性理論によってしか理解できないものです。



では、一般相対性理論はどんな絵を描くのでしょうか。一般相対性理論とは、一言で言えば、「重力によって空間が曲げられ、光や物質は その曲げられた空間を直進(最短経路を進行)する」というものです。3次元空間の曲がりは絵に描けないので、2次元平面の曲がりと、そこでの光の進行経路 の計算結果(「光の湾曲」参照)を図示してみましょう。

右図下が、今考えている2次元宇宙すなわち平面を上から見たものです。右図上は、その平面が重力のため曲がっていることを3次元の世界の住人が見た図で、2次元の住人は その3次元曲面の上に住んでいます。もちろん2次元の住人には曲がりは認識できず、自分の宇宙は平坦な宇宙と認識します。

中央の青色の円がブラックホールです。緑色の円は星を表します。通常の星では、ブラックホールは星よりはるかに小さくこれを考える必要がありません。 光は、3次元の曲面(曲がった平面、曲がった空間)の表面上で計った最短距離を進みますが、これを2次元の住人は、平坦な空間(平面)で湾曲して進むように 認識するのです。

星の質量が極めて大きくなると、星は1点に収縮してしまい、青色のブラックホールのみが存在するように見えます。この場合は、ブラックホールの十分外側を通る光は、星の場合と 大差ありませんが、近くを通るにつれブラックホールの周りを回って元の方向へ戻ったり、一周して何もなかったように元の方向と同じ方向に進んだりします。最も顕著な挙動は、 まさにブラックホールの表面近くを通ろうとする光は、ブラックホールの中に落ち込んでしまい、再び出てこれなくなります。

ブラックホールの内部は、我々の時空とは異なった異次元であり(虚数の時間軸・虚数の空間軸とでも言いましょうか。また、この世界では光円錐が傾き、光はブラックホールの中心方向に 進むと説明したりもします。)、別の議論が必要となります。ここを理解できれば宇宙の始まりが理解できるとされています。

      

   <参考1> 光円錐とブラックホール

          右図左の[ ]内の図は、2次元空間と時間軸からなる3次元時空での、光と物
          質の運動を表しています。光は円錐表面を運動し、下の円錐(過去)から、円
          錐頂点(現在)を経て、上の円錐(未来)へと進みます。この円錐のことを光
          円錐といいます。物質は、光円錐の内部を下から上へ進みます。
          
          右図の右側には、2次元のブラックホールと時間軸が表されています。
          ブラックホールと光の挙動の関係は、図示したように傾いた光円錐の表面上を
          進むと理解するのです。
          ブラックホールの外からブラックホール表面に向かう光や、ブラックホール表
          で発せられた光は、ブラックホール表面から動けなくなるというのです。
          一方、ブラックホール内部で発せられた光は、中心部へ向かうしかない、すな
          わち、ブラックホールの外には出られないというのです。
          



      

   <参考2> 物体の運動(「水星近日点移動」参照)

          上には質量のない光の運動を紹介しましたが、質量を有する物体の場合の挙動
          の一例として水星近日点移動を紹介しておきましょう。ニュートン力学では、
          星の運動は定まった楕円軌道を周回すると教えますが、現実は、水星の運動に
          見られるように、楕円軌道は時とともに移動することが知られています。
          この移動量は、摂動法という手法で他の惑星の影響として計算されていました
          が、それでも100年に43秒角の差を説明できなかったのです。
          一般相対性理論によれば、左図(極端な例を示しています)のように、楕円軌
          道の近日点(小さな黄色の丸)<遠日点を小さな緑色の丸で示す>の移動が計
          算でき、その差を見事に説明できるのです。2重性パルサーの観測では、その
          近星点移動が一般性相対性理論のより高い精度での検証となっており、且つ、
          それら連星の重力波放射のエネルギー損失による軌道半径の経年減少は、一般
          性相対性理論の予測する重力波理論とも一致する(重力波存在の間接的証拠)
          と言われます。

          なお、惑星自身の重力による空間の曲がりがある筈ですが、左図ではこれを省
          略しています。(惑星自身の作る空間の曲がりは惑星の運動とは関係がない。)



(b)宇宙背景放射と膨張宇宙(ダークマター・ダークエネルギー)

図 図

国立科学博物館の宇宙コーナーの片隅に、左図に示すような看板的な図が掲げられています。この図は、宇宙膨張の過程を模式的に示したものです。 膨張過程の途中に円形の写真が挿入されていますが、この拡大図を右に示します。

右図に示す図は、宇宙の遠方からくる電波の強度の分布を全天図(<軌道要素・天球座標>「全天図」参照) という表示方法で示したもので、宇宙背景放射といわれる合成写真です。


この電波の強度スペクトルは黒体放射の理論計算とぴったり一致しており、その温度が絶対温度 2.7 度であるとのことです。(その意味で この図を3K宇宙背景放射とも言います。) 更に、その全天にわたる強度分布が極めて均一である(図は差を誇張している)ことも分かるとのことです。 このわずかではあるが、その強度のばらつきを温度ゆらぎといい、現在の銀河の大規模構造に関連しています。

この図は、ハッブルの観測結果と共に、一般相対性理論の提起する宇宙膨張の重要な根拠を与えるものですが、それはおいおい説明することにしましょう。



一般相対性理論から導き出されるフリードマン方程式(詳細は「フリードマン方程式」参照)は、宇宙の大きさを a (現在 a =1 )として、以下の式で表されます。
         

Ωmは物質量を、Ωは宇宙が平坦(Ω=0)か閉じた宇宙(Ω<0)か開いた宇宙(Ω>0)かを、 ΩΛは、宇宙項とも言われ、ダークエネルギー(全く知られていない物理的量)を表しています。
(右図は、2次元空間の歪みを3次元空間の曲面で表したものであるが、その曲面の曲率Kに対応する宇宙を例示している。ただしK<0の図ではKは一様ではないため、 宇宙は一様すなわちK一様を前提とする考え方からすると、2次元宇宙での空間の曲がりだとしても正しい宇宙を表してはいない)

H0ハッブル定数とよばれる定数で 銀河の遠ざかる速度 v を銀河までの距離 d で割った数字です。
         
この定数H0の逆数は、以下の図の破線で示したように、宇宙年齢の一指標となっています。



この式により計算(「フリードマン方程式の解」参照)した様々な宇宙膨張の様子を下図に示します。
図 ダークエネルギーがないとした場合の膨張の様子は、赤・青・緑の線で表された経緯を辿ります。
 
    @ 赤線は、閉じた宇宙で物質量が多い場合を表
       していますが、物質による引力が強く、宇宙
       は一旦は膨張するが、最後には収縮してしま
       います(これをビッグクランチといいます)。

    A 緑線は、開いた宇宙で物質量が少ない場合を
    表していますが、物質の引力が少なく、宇宙
    は膨張し、その速度は減速しつつも、将来は
    一定速度となります。

  B 青線は、その中間の物質量で平坦な宇宙の場
    合ですが、やはり減速膨張し、将来は速度は
    0となります。(一定の大きさで停止)

これらのどの場合でも、宇宙の誕生が、せいぜい100億年以内ということになり、観測されている 最遠方銀河が100億光年以上ということと合致しません。従い、このことだけでも、ダークエネル ギーとして紹介した正体不明のエネルギーの存在を認めざるを得ないということになります。




   

ダークエネルギーの存在を認めると、赤紫(これが現在認められている経緯です)や黒線の経緯を辿る、すなわち宇宙は加速膨張をす ることになります。Ia型超新星(連星系をなす白色矮星の超新星爆発)による遠くの銀河の距離測定と赤方偏移という現象を利用した 観測結果から宇宙は加速膨張をしていることが、最近明らかになってきており、理論的にも観測的にも、ダークエネルギーの存在は 確実であると言わざるを得ないのです。
では、その量はどの位であるのかというのが次の疑問として残りますが、その前に、説明しておかなければならないことがあります。

第一に、宇宙の物質量は、観測される天体だけかという議論です。昔から、銀河中の恒星の回転速度が、ケプラーの法則が示すように銀河中心から の距離に従い遅くなるかと言えば現実はそうではなく、ほぼ一定の速度で回転していることが知られていました。この原因は、銀河全体を包む 球状の領域に何等かの物質があれば、ニュートン力学で説明されると言うのです。これをダークマター (光による観測はもとより、他の観測手段でも確認できない不明の物質)と言います。

一般相対性理論を用いれば、このダークマターの量も推定できるのです。前項(a)ブラックホールで述べた光の湾曲を思い出してください。 大きな質量をもつ天体(星でも、銀河でも、銀河団でも構わない)の後ろに隠れた天体が、光の湾曲で見える現象がある のです。それを重力レンズといいます。簡単なモデルでその現象を計算(「重力レンズ」参照)したものを下図に示します。右は原理を 示しており、左が重力レンズとしての結果です。左図で灰色で示したものが物質で、湾曲角を太陽の場合の10倍(シュワルツシルト半径は、 物質半径に比し極めて小さい))で描いています。 灰色の物質に隠れた星が、その物質の外側に、点状・アーク状・リング状に見えることになります。、

図

 
  <参考>
    光の湾曲角θと物質量Mの関係は、重力定数
  をG、光の通過半径をRとすると、
         
       と表されます。

 
   @ 左上の小さな点は、例えば太陽の傍に見える
    星の移動を示します。日食時の観測と半年後
    の観測で、星のずれが、一般相対性理論の予
    測する値と一致したというエディントンの観
       測結果は有名です。

  A 地球−物質−背景星が一直線の場合は、図示
    していないが、リング状に見えます。

  B 背景星が中心からずれるに従い、物質の両側
    の2つのアーク状(黄色)、1つだけの点状
    の光が見えます。

 

このように、重力レンズ効果を解析すると、そこに存在するダークマタ−の量を求めることができ、更に3次元的なダークマターの 分布状態も知ることができます。全宇宙的なダークマターの量は、宇宙の大規模構造の形成理論(放射優先膨張と物質優先膨張の境界 の時期が全宇宙の重量により決まる)で分かるといいます。最近は、宇宙背景放射の温度ゆらぎを解析することで、いわゆる物質(元素) の量はもとより、ダークマターの量も推定できるのだそうです。


第2には、宇宙は平坦か、はたまた曲がっているのかという議論です。

ここで、宇宙背景放射の図が重要な意味を持ちます。上に述べた重力レンズと同等の手法を用いて、宇宙空間の曲がり ie 宇宙の曲率 (正、負、0)により、宇宙背景放射の、中でも温度の高い領域(振動する最大のプラズマの塊で20万光年と計算されている)が写真で 大きく見えるか、小さく見えるかを計算し、これと宇宙背景放射のそれとを比較することにより、宇宙の曲率が0すなわちΩK=0 であることが判明したというのです。

                  図



このように、物質の全量Ωmが推定され、宇宙は平坦(ΩK=0)であることが明らかになれば、以下の算数で ΩΛが求まります。
         

現在の宇宙に関する諸量は、上述のように、宇宙背景放射の温度ゆらぎの解析により求められ、結果としてフリードマン方程式から 宇宙年齢が計算できることになります。以下に、WMAP衛星とPlanck衛星(こちらの方が新しい)の観測結果を列記しておきましょう。

WMAP衛星 Planck衛星
宇宙年齢 137±2 億年 138.13±0.58 億年
エネルギー量換算配分
(E=mc2)
(元素)4.4%
(暗黒物質)23%
(暗黒エネルギ)73%
(元素)4.9%
(暗黒物質)26.8%
(暗黒エネルギ)68.3%
ハッブル定数 71 Km/s/Mpc 67.1 Km/s/Mpc

いわゆる物質が4%程度しかなく、宇宙は未知のダークマター・ダークエネルギーに支配されているという驚愕的事実に突き当たります。







こうして、宇宙のビッグバンが約137億年前に起きたと推定され、宇宙の晴れ上がりが、ビッグバン後約40万年後に起きたとするのも フリードマン方程式を当てはめて求められています。(宇宙の晴れ上がりを、電子と陽子の結びついた時、すなわち元素が形成された時とすると、 原子核物理の理論より約3400°Kであるから、温度2.7°Kは約10000分の8、すなわち大きさが10000分の8のときであるといえます。 これをフリードマン方程式に当てはめると約40万年と出ます。)
ビッグバンのほんとの初期は、一般相対性理論では説明できず、量子論を持ち込まなければ理解できません。量子論によれば、ほんの初期は 真空の相転移(自発的対称性の破れ)により、きわめて短時間(プランク時間)に、指数関数的に宇宙は膨張( インフレーション理論)し、真っ赤な火の玉となり、ビッグバンにつながるとします。









[U] 一般相対性理論(1)/光の湾曲

一般相対性理論で扱う基本方程式は、次のアインシュタイン方程式のみである。

         

この式の中身は10元連立方程式で解析解を得ることはほとんど不可能である。特殊な時空モデル(特殊な計量テンソルで表される時空)に 対してのみ解が得られている。その数少ない例が、シュワルツシルト解やフリードマン方程式である。前者からは、光の湾曲(ブラックホール 解釈を含む)・水星近日点移動など解釈、後者からは、宇宙の膨張の解釈などが行えるようになった。以下にこれらの例を示す。
(一般相対性理論の物理的意味、関連する用語・数式、その数式の見方については<一般相対性理論基本>を見てください。)

(1) シュワルツシルト解

上のアインシュタイン方程式にgμνをかけて変形するとR=κTとなるのでこれをもとの式に代入して、次の変形式を得る。
         

今、時空モデルとして、静的な時空で、球対称の物質(総質量:M)の外部の時空を考える。今考えている外部では物質がないのであるから エネルギー運動量テンソルTμν=0(従いT=0)であるから、考えている時空は以下の式で表されることになる。
         
この時空の線素が、球面座標を用いた4次元時空 (u0,u1,u2,u3)=(ct,r,θ,φ)を用いて、下式で表されると仮定しよう。
         
この仮定した計量テンソルを用いて計算したリッチ曲率がRμν=0を満足するように関数f(r)を求めれば、目的の時空の計量テンソルが 決まる。誘導は後述(「シュワルツシルト解」参照)として、その答えは、
         
この式をシュワルツシルト解といい、a をシュワルツシルト半径という。
この式の意味するところは、シュワルツシルト半径 a より小さい半径rの位置では、時空が逆転(d(ct)2の係数は負が正に、dr2 の係数は正が負に変わる)し、我々が認識する時空とは全く異なる時空となるということである。「光の湾曲」で説明したように、光はこの半径内に引き込まれ この半径の中へ入った光はここから出られなくなる。そのことからこの半径の中をブラックホールという。

(2) 水星近日点移動

静的な時空で、球対称の物質(総質量:M)の外部の時空での運動方程式を考える。時空モデルはシュワルツシルト解のものと同じであるから 計量テンソルは既知である。その計量テンソルで表される時空での運動方程式は、曲線の弧長sを用いて、次の測地線方程式 (一般相対性理論基本参照)で表される。
         
ここに出てくるクリストフェル記号は、直交曲線座標の公式(ex. Γhhi=(1/2)(∂/∂ui)log ghh etc : 一般相対性理論基本参照)を使えば、
         
         
         
         
となるから、測地線方程式は、以下の4つの連立方程式となる。
         
         
         
         
更に、線素の式(光の運動の場合は ds2=0、質点の運動の場合は ds2=−dτ2と置く)が加わる。
         
この連立方程式を解くか、数値計算をすれば、3次元空間での質点の運動が求まる。

時間経過を問題としない3次元空間での質点の運動であれば、時間項を0とおいて、以下の方程式を数値的に解けばよい。(2次元空間での質点の運動 であれば、θ=π/2と置いた右側{ }内の2式を用いればよい。)
         
         
         

さて、次には、2次元空間(3次元空間の平面)での運動を考え、その解析解を求めよう。この場合は、上に既に出ているがθ=π/2 と置けばよいので、(3)式は自動的に満足され、 上記の5つの式は4つになる。更に、ds2=−εdτ2質点の運動の場合 ε=1、光の場合 ε=0) と置くと、
         
         
         
         
(9)式を(7)式に代入すると、
         
(8)式の微分方程式を解くと、積分定数をhとして、
         
であるから、
         
ここで、r = 1/x とおくと、dφ/ds=hx2を考慮して、
         
         
これらを(10)式に代入して整理すると、
         

rとφの関係のみに着目して、厳密に解くには数値解を得るしかない。(水星の近日点移動の場合は、ε=1とする。)

ここでは、更に近似解析解を求めてみよう。式(11)で、x2の項は一般相対論的補正量であって微小量ゆえこれを省略すると、ケプラー法則を 表すニュートンの方程式である。その解は r = l/(1 + e cosφ)である。また特殊相対性理論での扱い(U= -GMm/r、L=mc2{1-(V/c)2}-1/2 、 としてオイラーラグランジュ方程式を解く)では、r = l/{1 + e cos(ηφ)}となるので、この特殊相対論での解で近似すると、
         
であるから、(11)式は、
         
cos(ηφ)によらない項から、
         
cos(ηφ)の係数を比較して、
         
         
近日点はcosφ=−1の点であるから、φ→φ+2π+δφのとき再び近日点になるとすると、
         

この式に水星の観測データを代入すると、水星近日点移動角は次のような値となり、他の惑星の摂動分を除去した観測値に極めて近い値となる。
         
         

(3) 光の湾曲

ここでは、光の運動を考えるから、ds2=0と置かなければならない。すなわち、水星の近日点移動で説明した式(8)(10)で、ε=0と置けば その式はそのまま、光の運動を表す式となる。測地線の式は、
         
         
r=f(φ)としての微分方程式としてまとめると、
         
このいずれかの式を数値積分すれば、厳密解が得られる。

またここでも、近似解析解を求めよう。
(11')式の右辺を0と置いた同次方程式の解は、1/r = cosφ/R (R:積分定数)であるが、これを近似値として元の(11')式に代入すると、
         
この方程式の特殊解は、次式で与えられる。
         
一般解は、同次方程式の解と特殊解の和であるから、
         

この解は、φ=0 で、次式で表される点を通る。
         
境界条件として、φ=π/2 で r = r0 とすると、
         
x=r sinφ、y=r cosφと置くと、
         
であるから、無限遠方 ie φ=π/2 では、x軸と光線の交差角θは、
         
結論的に、x軸無限遠方(a/R→0 ie r0→∞ & R→rmin) からθの傾きを持って発した光は、x=0(物質or星の中心)で物質半径 R0 = rmin の位置を通り、x軸の反対方向無限遠方(r0=0、φ= -π/2) でθの傾きで 再びx軸と交差するから、星の中心から半径R0の位置をかすめる光の湾曲角δは、次式に示すように、シュワルツシルト半径 a を星の半径R0で割った値の2倍となる。
         

太陽など弱い重力場の場合シュワルツシルト半径 a は次式で近似されるので、太陽のシュワルツシルト半径は 、
         
となり、rmin = Rsun と置くと、太陽の表面をかすめて通る光の湾曲角は、次のようになる。
         

(4) ブラックホール

前項(3)で2次元空間すなわち平面での光の軌跡は求まったが、一般相対性理論では「重力により空間が曲がり、その曲がった空間を光は 直進する」のではなかったか。では、その曲がった平面は3次元空間でどんな形をしているのだろうか?。以下では、それについて説明しよう。
今考えている空間の線素は、シュワルツシルト解で θ=π/2 の場合を考え、且つ空間部分のみを考えているであるから、
         
この線素は、3次元空間(x,y,z)では、
         
で、両者は不変量として同じであるから、
         
         
従い、この微分を積分すれば、
         
すなわち、2次元空間の平面の人間には感じられない平面の曲がりは、3次元空間の回転放物線による曲面で表され、この曲面は遠方からシュワルツシルト半径 a に落ち込むが、 シュワルツシルト半径 a より小さくはならない

厳密な式(11')の数値解を求めてみれば分かることだが、光線の軌跡を占めす r はシュワルツシルト半径 a より小さくはならない。遠くをかすめる光は湾曲して 通り抜けるが、極めて近くを通る光は、シュワルツシルト半径内に落ちこむ。従い、物質(星)がシュワルツシルト半径より大きい場合は、 この星の表面で光は散乱されるからこのようなことは起こらないが、極めて重くその重力で自己崩壊を起こし特異点まで収縮すると、光はシュワルツシルト半径 に吸い込まれ、内部の光は出られなくなるので、これを見る(観測する)ことができない。これがブラックホールと呼ばれるものである。

(5) 重力レンズ

光の湾曲は、物質(重力レンズ:半径R0)の外側(半径Rの位置)をかすめて通ると、湾曲角は θ=2a/R で表されるから、右図のような簡単なモデルを 考えよう。各種記号は図示の通りとすると、
         
         
一方、星の中心を(x0,y0)、半径をa0、中心位置を(r00)、星表面の各点を(r,φ)とすると、
         
         
(x,y)は、星の内部であるから、
         
これらの関係を整理すると、重力レンズとなる星(半径R0)の背面にある星の、地球から見える角度(重力レンズとなる星の方向を0とする)βは、
         
但し、δ=r/(L1+L2)は、星の内部という次の条件を満足しなければならない。<βs=0 のときは、δ= -β0〜β0
         

ここに、
      <重力レンズの最大湾曲角>     

            <星、重力レンズ、地球位置関係>  
      <重力レンズ視半径>       
      <背景の星の位置角度>      
      <背景の星の視半径>           
φを0〜2πまで振らせて、各φで星の内部の点である条件を満たすδに対してβを求め、(φ0+φ、β)座標で図示すれば、冒頭に示した図となる。




[U] 一般相対性理論(2)/膨張宇宙

(6) 宇宙の膨張

宇宙を一様且つ等方的である(これを宇宙原理という)、すなわち4次元空間における曲面の曲率(K)はどこも一定で、物質(宇宙全体質量密度:ρ)は一様に分布しているものとして、 宇宙の大きさ a が時間的にどのような変化をするかを考える。不変量であるその線素は、宇宙の大きさ:a、曲率:Kとして、次のように表わされる。<以下で決まる計量テンソルを ロバートソン・ウォーカーの計量というがその説明は後述する。(「ロバートソン・ウォーカー>計量」参照)>
         
球面座標を用いた4次元時空 (u0,u1,u2,u3)=(ct,x,y,z)に対して、計量テンソルは、
         
解くべき方程式は、[U](1)で説明したように、次の変形アインシュタイン方程式である。
         

(a) リッチテンソル Rμν( 変形アインシュタイン方程式の左辺 )

先ず、(1)で示した変形アインシュタイン方程式の左辺を求めよう。リッチテンソルは次式で表される。
         
クリストフェル記号は、直交曲線座標の公式(ex. Γhhi=(1/2)(∂/∂ui)log ghh etc : 一般相対性理論基本参照)を使えば、 簡単にもとめることができる。時間軸に対応する時間成分を0、空間成分を i,j (i,j=1〜3)と書くと、
         
         
         
これらを使うと、R00は、
         
同様に、空間部分のΓiii、Γijj、Γiijを求め、Rμν(μ≠0,ν≠0)を計算(長くなるので途中を省略)すると、
         
すなわち、時間成分R00及びRij(i,j=1〜3)は、
         
これで変形アインシュタイン方程式の左辺が求まった。

(b) エネルギー運動量テンソル Tμν( 変形アインシュタイン方程式の右辺 )

次に、変形アインシュタイン方程式の右辺を求めよう。 宇宙に存在する物質を、静止した完全流体と見なすと、エネルギー運動量テンソル(ミンコウスキー空間でのTμν、Tμν)は、 次のように表される。
         
         

         <注>
        上記左側に示したTμνを一般化座標で表すと、4元速度ベクトルを、v(v0,v1,v2,v3)として、次のように書ける。
                  
                ミンコウスキー空間< gμνμν=(-1,1,1,1)>の場合は、流体が静止している、すなわち v(c,0,0,0)で
                あることを考慮すれば、上記左側の行列になっていることが分かるでろう。
上記右側の行列は、上式の両辺にgλνを掛けると得られる。左辺はgλνTμν=Tμλであり、また右辺は gλνvν=vλ、         gλνgμνμλであるから、                   ここで流体が静止している、すなわち v0=c(v0=g00v0=-v0、vi=0(i=1〜3)であることを考慮すれば、上記右側の行列 になっていることが分かる。ミンコウスキー空間< gμνμν=(-1,1,1,1)>の場合は当然そのようになっている。
        ロバートソン・ウォーカーの計量の場合、g00=-1であるから、エネルギー運動量テンソルとして、上記右側の行列が適用できる。
すなわち、時間成分R00及び空間成分Rij(i,j=1〜3)は、ロバートソン・ウォーカーの計量 gμνを適用して、
         
         
         
従い、右辺は、以下の式となる。
         
         

(c) フリードマン方程式

これら左辺と右辺を等しく置いて、以下の方程式を得る。
         
         
この2式から、を消去すれば最終的に、以下の 宇宙膨張の方程式を得る。
         
ここに、κ は、κ=8πG/c4であり、またM=(4/3)πa3ρを考慮して、以下のフリードマン方程式を得る。
                   

アインシュタインは、静止宇宙(膨張も収縮もしない宇宙)を信じており、この項の冒頭で示した式で とおくと、p = −(1/3)ρc2 すなわち圧力が負となり、静止宇宙が保持できなくなると考え、宇宙項と呼ばれる項Λを導入した。
         
この項を活かすと、フリードマン方程式は、次のように修正される。(参考:この場合は、R=κT+4Λである。)
         

所で、ハッブルの法則は、銀河の遠ざかる速度vと銀河間の距離dとは比例関係にあり、その比例係数をハッブル定数Hという。この関係は 宇宙の膨張速度と大きさ a の関係そのものであるから、
         

宇宙論で現在用いれている方程式は、宇宙項を復活させ、且つ物質に放射エネルギーを加えた式が用いられている。
すなわち、現在のハッブル定数を H0 、臨界密度(K=0、Λ=0としたときの現在値)をρc、現在の物質密度をρc,0 、放射エネルギー密度をρr,0 とすると、以下のように整理される。

         
                   ここに、 
                              <密度パラメータΩm>  
                              <密度パラメータΩr>  
                              <密度パラメータΩk>  
                              <密度パラメータΩΛk
宇宙膨張を論ずる式は、Ωrは極めて小さいので無視すると、最終的に、次式で表される。
「補足ロバートソン・ウォーカーの計量」でも説明しているように、 a は無次元化したスケールファクターであり、現在の宇宙を a = 1 としている

         

ここで示されるΩkは、Ωkが負なら、Kは正の曲率すなわち空間の曲がりは球面(閉じた宇宙)、Ωkが正なら、Kは負の曲率すなわち空間の曲がりは虚数空間の双曲面(??)(開いた宇宙)を、 そして、Ωkが0なら、曲率Kは0すなわち空間は平面(平坦な宇宙)を意味する。

(d) フリードマン方程式の解

前項(c)で示した宇宙方程式の解は、次の積分となる。
         
積分公式 ∫1/(1-x2)1/2dx = sin x 、∫1/(1+x2)1/2dx = sinh x を参照<さらにx=1/sin2(θ/2) or 1/sinh2(θ/2)>すれば簡単に解けて、その解は以下の通りとなる。(全てのΩが0でない方程式の解が 気になる方は、級数展開で解が得れれるそうなので解いてみてください。)

ΩΛ<0 ΩΛ=0 ΩΛ>0
開いた宇宙:Ωk<0
平坦な宇宙:Ωk=0

閉じた宇宙:Ωk>0

宇宙方程式を、 da/dτ=(Ωm/a+ΩkΛa2)1/2=−U(エネルギーポテンシャル) <Ωk=1-ΩmΛに留意>と見なせば、下図のような挙動として理解できる。

∂U/∂a=0より、極大点は、 amax={Ωm/(2ΩΛ)}1/3 となる。宇宙の挙動は、 この極大点の a の正負と、Umaxの正負で決まる。すなわち、

Λ<0では、 a>0 に極値を持たないので、すべて、ある値まで膨張しても収縮してしまう。

     AΩΛ>0では、 a>0 に極値を持つので、Umaxが、負なら膨張を続け、正なら膨張後収縮する。
                   ΩΛ>0でも、 ある値以上に大きいと宇宙がかなり小さいうちに収縮する。

     BΩΛ=0では、 Ωm<1なら膨張を続け、Ωm>1なら膨張後収縮する。
                 Ωm=1なら、Umax=0すなわち静止宇宙となるが不安定。                           

現在の観測データによれば、Ωk=0(宇宙は平坦)、Ωm≒0.27、ΩΛ≒0.73(宇宙は加速膨張)であるので、 上表の計算式を適用して、宇宙の年齢は、約137億年となる。


[U] 一般相対性理論(3)/重力場

(7) 重力波 (x3軸方向に進む重力波図)

真空中すなわち物質のない空間を伝搬する重力波を考える。物質のない場合の重力場の方程式( <一般相対性理論基本>を見てください。)は、次式で表される。
         
この式は、真空中の電磁場の方程式 □Aμ = 0 と同じ形をしていることから、時空幾何学のゆらぎ hμνの変化すなわち 重力波が光速で伝搬することが直ちに理解できよう。また式の形が同じであるから、電磁波と同じように、hμν は、 以下のように軸3(x3)方向へ進行する平面波で表される。
         
         
重力波も電磁波と同様に横波で2個の偏極をもち、A11=−A22、A12=A21である。

平面重力波の時空計量は、a+=h11=−h22と置くと、g1111+h11=1+a+ であるから、
         
また、a×=h12=h21と置くと、
         
         
ここに、座標変換は以下のように行っているので、2番目の重力波の振動は、1番目の振動とは45°の角をなす。(x1,)。
         



詳細は割愛するが、重力波の放出率は、星の慣性モーメントの時間に関する3階微分の2乗に比例する。数式で示すと、
         
特に、互いに回転する中性子星の連星系が合体する瞬間や、自転している星が超新星爆発を起こし中性子星やブラックホールになる瞬間に 大量の重力波が放出される。この重力波を直接的に検出しようとして、マイケルソン・モーリの光速測定に用いられたレーザー干渉計と同じ 原理の装置(米国のLIGO、日本のKAGRAなど)が設置されている。



[V] 補足(シュワルツシルト解・ロバートソン・ウォーカーの計量)

(1) シュワルツシルト解の計量

今、時空モデルとして、静的な時空で、球対称の物質(総質量:M)の外部の時空を考える。今考えている外部では物質がないのであるから エネルギー運動量テンソルTμν=0(従いT=0)であるから、考えている時空は以下の式で表されることになる。
         
この時空の線素が、球面座標を用いた4次元時空 (u0,u1,u2,u3)=(ct,r,θ,φ)を用いて、下式で表されると仮定しよう。
         
すなわち、計量テンソルは、反変・共変(共変は反変の逆行列)それぞれ、
         
         
但し、r→ ∞ の時、時空は物質の影響が少なくなり平坦な時空すなわちミンコウスキー空間<計量ηii=(-1,1,1,1)>とならなければならない。 即ち、r→ ∞ で、g00→ −1 ie f(r)→ 0、g11→ 1 ie h(r)→ 0 とならなければならない。

さて、∂gij/∂u0=0(i,j=1〜3、i≠j)であるので、
         
         
         
リッチテンソルRμνは、0でない成分として、<f '=df/dr、f '' =d2f/dr2
         
         
今考えている時空では Rμν=0でなければならないから、R00=R11=R22=0を満足しなければならない。
R00=R11=0より、1/2f ''+1/4f '(f '-h')=h '/rであるから、
         
これを、R22に代入して、<f '=df/dr>
         
この積分は、e-h = x と置けば簡単に解けて(積分定数 c = log c'、a=1/c')、
         
従い、線素の式は、
         
この項の冒頭で述べたように、r→ ∞ で、 f(r)→ 0、 h(r)→ 0 の条件があるから、積分定数 b = f+ h → 0 でなければならない。 従い、今考えている時空の線素の式は、b = 0 と置いて、以下の通りとなる。この式を、 シュワルツシルト解という。
         

弱い重力場の場合、計量テンソル g00は、ニュートン力学での重力ポテンシャルをΦを用いて、次のように近似できる。
         
Φは原点にある物質(たとえば太陽)の質量を M 、万有引力定数を G とすると、
         
であるから、これまで a としていたシュワルツシルト半径は、以下の如くに表される。
         

(2) ロバートソン・ウォーカーの計量

宇宙を一様且つ等方的である(これを宇宙原理という)、すなわち4次元空間における曲面の曲率(K)はどこも一定で、物質(宇宙全体質量密度:ρ)は一様に分布しているものとして、 宇宙の大きさ a が時間的にどのような変化をするかを考える。

ここで議論する計量は下記<注>に示すようにシュワルツシルト計量の導出と同様に、数学的に導出できるが、ここでは直観的に理解できるような説明をしてみよう。

先ず最初に、3次元宇宙を4次元空間の球面(閉じた宇宙)と見做し、この4次元球面を3次元空間に射影することを考える。しかし、4次元空間は図示できないので、 3次元空間の球面を2次元空間すなわち平面に射影することで説明をしよう。

右図のように、(x,y,z)空間の半径 R の球面の(ξ,η)平面への立体射影変換を考えよう。各種記号は図示の通りとすると、球面上では、
         
         
立体射影面では、
         
         
上の第1式中のρ = 2 a cot(θ/2)を微分して、上の第2式に代入・整理すると、
         
従い、(dl)2と(dl')2を比較して、
         
すなわち、(x,y,z)→(ξ,η)変換に対し、
         
微分して、
         
以上が、3次元空間での閉じた曲面(曲率>0)とその立体射影である2次元空間での宇宙の線素の関係である。
3次元球面のガウス曲率 K は、 K=1/R2であるから、ρ2/4R2=Kρ2/4となる。

現在の3次元宇宙空間の半径がR0(2次元平面の現在の座標・半径・曲率:ξ0・η0・ρ0・K0)として、 任意の時期における宇宙空間の半径がR(t)としているから、スケールファクターa(t)= R(t)/R0を導入すると、宇宙空間の膨張・収縮ではθ,φは時間的に変化しない から、ρ=2R cot(θ/2)より、ρ=aρ0となる。従い、ξ=aξ0、η= aη0でもあり、K=K0/a2であるから、上式は、
         

数学的に、3次元空間の曲面で、負の曲率 K = −1/a2 を考えることができるので、K に正負の記号を与え、また、現在値を示す添え字を省略して、統一的に次式を用いることができる。
         
この式により、一様且つ等方的な宇宙を表すことができ、K>0 なら3次元空間での閉じた曲面(宇宙)、K=0 なら3次元空間での平坦な曲面(宇宙)、K<0 なら3次元空間での開いた曲面(宇宙)となる。

以上の論理を4次元空間に拡張すると、(x,y,z,w)→(ξ,η,ζ)変換に対し、
         
このように変換された3次元空間(ξ,η,ζ)に時間軸を加えて4次元時空を作ると、4次元時空での線素は ds2=−(cdt)2+(dl)2であるから、(当初の式にあわせるため、(ξ,η,ζ)を(x,y,z)に書き直して)、

         

この式をロバートソン・ウォーカーの計量という。なお、これまでに説明したように、この式は、現在の空間の座標(x,y,z)で表わされており、 分母も現在値であり、時間の関数ではないことに留意すべきである。




  <注> ロバートソン・ウォーカーの計量の別表現

      ロバートソン・ウォーカーの計量は、シュワルツシルトの計量を導出した同じ方法で導出できる。空間の計量を、
         
      とおくと、リッチスカラー(リッチ曲率) R=-2/r2・d/dr{r/f-r}が得られ、@Rが一定(=D)、Af(r)≠0 @ r=0の条件で、
      微分方程式を解き、D=6κ/a2(κは -1,0,1 の単なる符号)と置きなおして、(ds)2 =−(cdt)2+(dl)2に代入すると、
      次の式が得られる。

               


            このロバートソン・ウォーカーの計量は、変数変換でいくつかの形態に変化する。いま r/a→r の変換を行えば、
         
      また、r=ρ/(1+κρ2/4a2) <x=ρsinθcosφ,y=ρsinθsinφ,z=ρcosθ、ρ2=x2+y2+z2> なる変換を行えば、
         
      となり、更に、ρ/a→ρ の変換を行えば、上に図から導出した式と同じになる。
         







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